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「漸くあのうるせぇガキが消えたかと思ったら…その次がこれって」

 深い溜息を吐いて俺を見る真由ちゃんは蔑みの視線を向ける。会ったばかりの優治先輩を思い出し、胸がズキリと痛んだ。
 煩いガキというのは、京で間違いないだろう。確かにあいつは煩いガキと表現するのが正しい。あと不潔、っていうか…なんというか、髪が…。

「おい、聞いてんのか不細工」
「ぶっ…」

 不細工って! 優治先輩や真由ちゃんに比べたら確かにそうだけど! 面と向かって言われると傷つくんだが。

「え、えっと…俺は、京と優治先輩をくっつける手伝いみたいなこと、してて…それから話すようになって…」
「…ふーん…」

 真由ちゃんはジロジロと俺を見定めるように見ると、鼻で笑った。俺は居心地が悪くて俯いた。

「まあ、こんなんじゃ直ぐに優治お兄様も飽きるだろ」

 グサリ、と言葉が胸に刺さった。言い返すことができない。京も、今は疎まれるような存在になっている。次にそうなるのは、――俺だ。
 そこで気がつく。俺、優治先輩が離れていくことを恐れている…? なんで、と自分に問いかけるのは怖くてできなかった。

「…私は、優治お兄様が好き」

 ハッとして顔を上げる。真由ちゃんは、じっと俺を見つめていた。真剣な顔だ。愛と瞳が脳裏に浮かび、消えた。

「アンタなんかに、あげないから」

 そう言う真由ちゃんは、何だか泣きそうな顔をしていた。必死で泣くのを我慢しているような。…真由ちゃんは女の子だ。優治先輩は、女の子も恋愛対象、なんだろうか…。
 俺は真由ちゃんにとらないよ、と言おうとして胸の痛みに気づき、一度口を閉じる。そして息を吸って、しっかりと真由ちゃんを見つめた。

「なによ、その顔…。まさか、優治お兄様のこと、好きだとか言うんじゃ」
「わからない。……でも、そうかもしれないと思ってる」

 真由ちゃんはぐにゃりと顔を歪めた。食いしばった口が何かを発しようとした時。ガチャリとドアが開いた。

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