本性

 優治先輩が俺をどう思っているのか分からないままその話は終わった。
 事件はその数分後に起きた。

「優治お坊ちゃん」

 ノック音と共に高嶋さんの声が聞こえた。

「あんだよ。入れ」
「失礼いたします」

 一礼をした高嶋さんはチラリと俺を見た。不思議に思ったが、視線は直ぐに逸らされた。

「優治お坊ちゃん、…お父様がお呼びです」

 優治先輩にかける声は、何だか硬い。

「親父が? ……ッチ」

 舌を打って、立ち上がる。俺はそれをじっと見つめる。視線に気づいたのか、顔をこっちに向けると、頭に手を乗せた。そのままぽんぽんと数回叩くと、ふっと笑みを零す。

「悪ぃな、すぐに戻ってくる」
「あ、は、はい」

 ダルそうに歩いて行く優治先輩の背中を見送る。少しの間なのに、ちょっとだけ寂しさを感じて見ていると、突然振り返り、ドキリとした。パッと顔を逸らす。
 パタン、とドアが閉じると静寂が訪れた。先程から真由ちゃんが一言も喋らない。何か、話題をと思って口を開いた時だった。

「あの、大樹さん」
「え? ああ、何?」

 真由ちゃんがすくっと立ち上がって笑みを浮かべながらこっちへと向かってくる。目の前までやってくると、肩に両手を置いた。一体何だと首を傾げる。

「えっと、真由ちゃ…」
「ふふっ」

 え?
 訳が分からず固まっていると、両肩に真由ちゃんの指が食い込んだ。

「いだだだだだ!?」
「大樹さん」
「ちょ、え、ま、真由ちゃん!? 指! 指が肩に!」
「うっせえな黙れよ」

 え!?
 目を見開いて真由ちゃんを見るが、目の前の彼女は依然として可愛らしく笑っている。…この口からうっせえとか黙れとか出るなんて考えられない。聞き間違い、か…?

「おい、テメェ…何が目的で優治お兄様に近づきやがった」

 あ、優治先輩の呼び方はそのままなんだ…。
 ――って、目的…?

「別に俺は…」
「あぁ?」

 うわあ、優治先輩を女にしたレベルの口の悪さだよ…。

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