美少女

「あ、えっと、優治先輩は好きな食べ物とかありますか?」
「好きな食べもん? あー…特にねえが、まあ、肉はよく食べるな」

 肉を丸齧りしている優治先輩が浮かんだ。……うん、似合う、凄く。

「じゃあ嫌いな物は?」
「……パセリ。あれだけはどうしても無理だ」

 苦虫を潰したような顔でぼそっと呟かれた言葉を素早く脳内メモに記す。じゃあ次は、と口を開いた俺の目の前に手の平を向けられた。

「今日は良く喋るな」
「あ…ウザかったですか?」

 俺調子に乗りすぎたかも。俯いてすみませんと謝ると慌てたように優治先輩が声をかけてきた。

「ちげえ! 嬉しいに決まってんだろ! …気になることがあるなら何でも言え。答えられることは何でも答えてやる。ただし」
「ただし…?」

 俺は顔を上げて、ウザがられていないということにホッと息を吐いた。優治先輩は嫌なことは嫌だときっぱり言うだろうから今の言葉に嘘はないだろう。でも、その後に続く言葉に不安になった。

「お前のことも聞かせろ」
「俺、ですか?」
「ああ、大樹のことをもっと知りてぇ」

 そう言って優しく微笑みかけられ、顔に熱が集まる。くそう、格好いい。赤くなった顔を見られたくなくて再び俯く。ぷっと吹き出す音が聞こえた。

「お前、耳まで真っ赤だぞ」

 は、恥ずかしい……!
 手で顔を覆おうとすると、両手首を掴まれる。驚いて優治先輩を見上げた。

「大樹…」

 真剣な顔。元々そんなに遠くなかった距離が段々縮まって。あ、と思った時。
 バン、と大きな音を立ててドアが開かれた。

「ごきげんよう! 優治お兄様!」

 綺麗なドレスを身に着けた黒髪ロングの美少女が、にっこり微笑んだ。

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