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 色々豪華なものを見てきたせいか、あんまり驚かなくなってきた。例え大人数でも寝れそうなくらい大きいベッドがあるとか、高そうな壺やらなんやらがケースに飾られているとか、天井にシャンデリアとか、ボタン一つで巨大スクリーンが出現するとか、エトセトラ。この部屋だけで幾ら金がかかったのか大変気になるところである。……いや、やっぱり怖いから聞きたくない。

「ほら、ここ座れよ」
「あ、はい、どうも…」

 促されて恐る恐る白いソファに腰掛ける。瞬間、とんでもなく柔らかい感触に俺は危うく叫びそうになった。あんぐりと口を開けたまま固まっている俺を優治先輩が目を丸くした。

「どうした?」
「あ、いや、あの。柔らかいなって…」

 優治先輩はふっと笑って俺の横に座った。恥ずかしくなって黙っていると、優治先輩が誇らしげに言った。

「だろ? 気に入ってんだよ」

 学校の椅子は固くていけねえ、と不機嫌顔になる優治先輩に笑みが漏れた。確かにこんだけ柔らかいソファに毎日座っていたら、学校の椅子は耐えられないな。
 話題が途切れ、しんとする。さて、何から質問してみようか。考えていると、ノックの音が聞こえた。

「優治坊ちゃん、高嶋です」
「入れ」
「失礼します」

 ドアを開けて恭しく一礼した高嶋さんは、ワゴンを押して入ってきた。そのワゴンには美味しそうなお菓子や飲み物が乗っている。何だかどれもめっちゃ旨そうなんだけど。涎が垂れそうになって慌てて飲み込む。
 高嶋さんがソファの前の高そうなテーブルにお菓子と紅茶を置いていく。無駄のない動きに見惚れた。

「お好きに召し上がってください」
「あ、有難うございます」

 四十五度の礼をする高嶋さん。俺も慌てて立ち上がってぺこりと礼をする。高嶋さんは一瞬目を見開いて、微笑んだ。何となく見つめ合っていると、チッと舌打ちが聞こえる。

「おい、もう用は済んだだろ」
「ああ、そうですね。お邪魔して申し訳ございません。では、ごゆっくり」

 もう一度礼をして、高嶋さんは出て行く。閉まっていくドアを見つめていると、ぐい、と腕を引かれた。

「わ、」

 ぼすっとソファに尻が沈む。隣の優治先輩はむ、とした顔で俺の手を握っていた。構ってくれなくて拗ねている子どもに見えて、きゅんとしたのは何かの間違いであってほしい。

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