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 まさか、優治先輩が俺を好きだなんてこと、あるはずがない。そりゃ京を好きだったんだから男でも恋愛対象になるんだろうけど。でも好きな人いるって言っていたし…それが俺だとは考えづらい。いや、そう思いたくないというのが正しいかもしれない。俺が同性にそういう意味で好かれていることを認めたら。…俺が、優治先輩を好きになってしまったら。
 チラリと俺の手を引いている優治先輩を見上げる。自意識過剰かもしれないが、こうやって手を繋ぐのは、やっぱりそういうことなのかと考えてしまう。優治先輩の交友関係を知らないから、案外誰にでもこういうことしているのかも。そう思って、ちくりと胸が痛んだ。仲がいい友人が他の奴に取られた時のような嫌な感情がモヤモヤと俺の中を支配する。嫌だ、こんな感情を持つのは。俺はぶんぶんと頭を振って、思い切って優治先輩に話題を振った。

「あの、優治先輩」
「ん? どうした?」

 前を向いていた優治先輩がこっちを向いて首を傾げる。ハッと息を呑むほどの端正な顔が俺をじっと見つめている。どきりと心臓が跳ねた。意識してしまい、何を話そうか忘れてしまった。とりあえず、何か言わなければ不審がられる。慌てて口を開いた。

「せ、先輩の誕生日って、いつですか」

 咄嗟にそう言ってから、そういえば知らなかったなと気付いた。優治先輩は一瞬きょとんとして、嬉しそうに顔を綻ばせた。ああ、先輩の周りにキラキラオーラが見えて眩しい。

「俺様の? 八月十日だ」
「八月、十日――」

 ちゃんと覚えるように何度か呟く。良かった、まだ過ぎていない。先輩には服とか貰ってしまったし、何かお返しをしないとな。といっても、俺が買えるのは先輩からしたらゴミ同然の安物だけど。

「お前は?」
「へ?」
「大樹の誕生日はいつだ」
「え、お、俺ですか? 俺は、一月一日です」
「へえ、正月なんだな」

 先輩が楽しそうに笑うから、何でそんな嬉しそうなんだろうと思いながら笑い返す。先輩の趣味とか、好きな食べ物とか、知らないことを沢山知っていきたい。うん、今日一杯質問しよう。俺はぐっと手を握って小さく笑った。
 それから少し経って、優治先輩が立ち止まった。

「ここが俺様の部屋だ」

 金色の装飾品に飾られたドアを見つめながら、この部屋は一体俺の部屋の何十倍あるんだろうと引き攣った笑みを浮かべた。

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