会長の家


 優治先輩の家は、どこの城かと思う程豪華な家だった。あんぐりと口を開けて見上げた。……本当に世界が違う人なんだということを実感した。そのことが少し寂しくなり、チラリと優治先輩を見ると、不思議そうな顔をしている。
 優治先輩はどうしてあの高校に行っているんだろう。もっと金持ち校の方が彼には似合っている。付き合う友人や後輩だって、俺みたいなのよりもっと…。

「…おい、大樹。具合悪いのか?」

 隣から心配そうに俺の顔を覗き込む。急に至近距離に現れた顔にびくりとする。無意識の内に俯いていたらしい。俺は顔を上げ、慌てて笑って否定した。

「大丈夫です」
「そうか」

 そう言うと、手が伸びてきた。どうするのかと追って行ったら、それは俺の手をするりと撫でた。そしてきゅ、と指が絡まり手がくっつく。俺は暫し呆然と手を見ていて、引っ張られた瞬間我に返る。
 なんという自然な流れで手を…!

「おい、行くぞ」
「あ、はい」

 俺は頷いてから、あれ? と首を傾げる。
 ……何で手を繋いだんだ?




















 沢山の人に笑顔で迎えられ、俺は目を瞬かせる。優治先輩は何も言わず真ん中の赤いカーペットを進んでいる。俺は引っ張られながら頭をぺこぺこ下げた。…誰も手を繋いでることに突っ込まないし何だか凄い微笑ましい顔で見られてる気がする…。

「おい、高嶋」

 優治先輩はノンフレームの眼鏡を掛けた男性に声をかける。ピシッと固めた髪と伸ばされた背筋、着こなしたスーツ。如何にも出来る男という印象を与えられた。

「はい」
「後で俺の部屋に茶と何か適当に持って来い」
「畏まりました」

 ドラマか何かで見たような光景だ。じっと高嶋さんを見ていると目が合い、微笑まれる。優治先輩の横にいる所為で霞んでいるけど、この人結構良い顔してるな…。背筋を伸ばして一礼した後笑むと、高嶋さんも笑みを深くした。ぎゅ、と手に力が込められたのに気づき、優治先輩を見ると、何故か高嶋さんを睨んでいた。それも結構な眼力で。どうしたのだろうと困惑する。

「…優治坊ちゃん、高浜様が困っていらっしゃいますよ」
「っ!」

 ハッと目を開いた後、俺を見て小さく謝った。首を横に振ると安心したように笑う。
 優治先輩はコロコロと機嫌が変わるからあんまり気にしない方がいいのだろうか。俺は先程高嶋さんに対しいきなり機嫌を悪くした原因を考えたが、有り得ない仮説が出てきたところで慌てて考えるのを止めた。

[ prev / next ]

しおりを挟む

29/59
[back]