今日は会議や保護者説明会が色々あっていて全ての部活が活動していない。だからいつも放課後騒がしい校庭も別棟も、まるでここだけ違う世界なんじゃないかと思うほど酷く静かだった。まだ入学したてで校舎の構造や配置を理解していない俺は辺りをキョロキョロと見ながら歩いていく。早いうちに覚えておかないと、遅れそうになったときにやばいだろうな。
　最近舗装工事を終えたばかりらしい廊下を歩いていると、人の唸り声のようなものが聞こえた。突然聞こえたその声に俺は驚いて肩を震わせる。
　い、一体誰だ……？
　近くの教室を覗き込むと、一人の男が眉を顰めて座っていた。俺は思わずその男を凝視した。
　――凄ぇカッコいい……。この人って、確か……えーと…。
　どこかで見たよなあ、とその人物について思い出そうと頭を回転させた。クラスの女子の話や一度壇上で見たことを思い出す。――そうだ、生徒会長だ、あの人。あの鋭い瞳に睨まれたら竦み上がるだろうなと記憶していた。
　しかも彼の特徴はその瞳だけではなくて、寧ろ彼全体が特徴的で魅力というか。一言で言うならば、王者の風格…？　誰もが見惚れる端正で精悍な顔つき、モデルかと思うほどすらりと縦に長い体、彼が囁くと忽ち失神してしまう美声。加えて流石生徒会長と言うべきか成績優秀、運動神経抜群。おまけに金持ちのボンボン。学園一モテていて誰からも注目されている男だ。
　噂によると抱いた女は星の数。来る物拒まず去る物追わずな性格で、面倒な物事が大嫌いらしい(ならなんで生徒会長やってるんだって話だ)。しかし、俺様で横暴だという性格からいい好感を持てない俺。別に嫉妬とかじゃない、うん…。凄いカッコいいのは認める。こりゃ女だったら惚れるわ。
　でも俺様とかそういうのって、相手のこと大切にしてなさそうなイメージがある。いや、偏見だけど。しかも全て噂で、俺自身一度しか見たこと無いからもう誤解だったら申し訳ないよなあ…。でも会長って見方によっては不良っぽくないか？　ぶっちゃけこの顔でその性格って怖くないか？
　って、そんなことはどうでもいいだろう。何で会長がここに…。それに、いつも周りに人がいると聞いたが、何で一人？　……非常に気になるが、俺は他に用事あるしな。っていうか、見つかって関わりあいたくない。
　そう思って早々に通り過ぎようとしたが、そういえばここは何教室だろうと上を見て固まった。『家庭科室』俺の目が可笑しくないならこう書いているように見えるんだけど……え？

[ prev / next ]

しおりを挟む

2/4
[back]