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「す……」
「す?」
「す、す…――す、寿司が食いてえ」

 え?

「は、はあ…そうですか」

 何故態々手首を掴んで言うんだ。そして何で俺に言うんだ。ポカンとしたまま言うと、気が抜けたような溜息を漏らす優治先輩。

「何やってんだ俺様は…」

 ジャズの音に消され、優治先輩が呟いたことが聞き取れなかった。が、何かに落ち込んでいるということは伝わった。急にどうしたんだろうか。もしかして疲れたのか? 考えを巡らせていると、肩に何かが乗った。温もりとずっしりとした重み。俺は驚いて優治先輩を見る。

「ゆっ、優治先輩!?」
「あ? んだよ」
「いや、あの…何して」
「……重いか?」
「いえ、重くはないんですけど」

 俺の返事に満足そうに笑うと、そのまま目を閉じる。ね、寝るのかな…。硬直したまま寝顔までイケメンな裕二先輩の顔をじっと見つめる。睫毛長ぇ…し、鼻筋が通ってて本当整った顔してるよな。
 性格に難有りな人でもこんなに格好いい人と密着しているということに心臓が暴れ始める。じっと見つめすぎたか何なのか、優治先輩の目が開き視線がかち合う。ドキリと心臓が強く跳ねた。

「…何だ、俺様に見惚れたか?」

 くく、と喉を震わせて笑う優治先輩の言葉に何も返すことができない。それどころか顔を赤くしてしまい、顔を逸らした。

「……え、マジかよ…」

 呆然としたような声に顔を戻した。まじまじと俺を見ていて、その頬は少し赤い。怒っただろうか。男相手に気持ち悪いと思われただろうか。

「ち、ちが…」

 慌てて否定するも、真っ赤な顔では説得力がない。居た堪れなくてぎゅっと目を瞑る。ごくりと音がした直後に肩の重みがなくなった。その代わりに両肩を掴まれ驚いて目を開けると、体を優治先輩の方にぐいっと向けられて引き寄せられた。

「えっ」

 思考が止まる。抱き締められていると気が付いたのは、優治先輩が力を込めた時だった。

「…暫く、こうしてもいいか」
「いや、あの」
「いいよな」

 あれ、今の疑問形じゃなくね…?

「……ハイ」

 俺はぎゅうぎゅうと締め付けてくる優治先輩が少し可愛く見えて、小さく声を上げて笑う。

「何笑ってんだよ」
「いえ、なんでも」

 ムッとしたような声に返せば、それ以上訊いて来ないようで無言になった。おずおずと背中に手を回すと、優治先輩のピクリと肩が反応する。
 車内で何やってんだとか、男同士だとか、色々なことが頭に浮かんだけど、心地よい心臓の音と体温に目を閉じた。

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