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(side:大樹)
「初めまして、高浜様。本日運転をさせて頂きます、盛岡と申します」
「あ、どうも…」
運転手に恭しく頭を下げられた後、ドアを開ける。前に出かけたときは無理矢理押し込められたな。そんなに日が経っていないはずなのに、酷く懐かしく感じるのは、優治先輩の態度が変わったせいだろうか。
「どうした? 乗れよ」
肩を軽く押され、俺は慌てて頷くとドアを開けたままニコニコしている盛岡さんに頭を下げて車に乗った。似たような外装の車だったが、内装は前のより豪華な気がする。どんだけ車持ってるんだろう。
どの席に座ればいいか分からず、取り敢えず奥に座ると、続いて乗ってきた優治先輩が隣に腰掛けた。椅子は向かい合わせになってるんだし広いんだから詰めなくても、と思うが何だか機嫌が良さそうにしているので口を噤んだ。
「そういえば…あの、母と弟が色々すみませんでした」
「別に気にしてねえよ」
その言葉にホッとするが、郁人は兎も角、優治先輩が郁人に話があると言っていたのを思い出し、少しもやっとした。
「郁人――弟が、何か失礼なこと言いませんでしたか?」
あいつは素で失礼なことを言う時があるからな。優治先輩とリビングに戻ってきた時特におかしな様子はなかったけど、一応訊いておこう。優治先輩は眉をピクリと動かして俺を見る。
「…いや、何も言われてねえよ。ただ…」
「ただ?」
「応援はされたがな」
「は?」
愉快そうにくつくつと笑う優治先輩に素っ頓狂な声が出た。
……応援? 何の? 訳が分からずクエスチョンマークが頭に浮かんでいる俺を見て、また笑う。
「ま、気にすんな」
「はあ…」
腑に落ちなかったが、食い下がるほどの話題でもない。帰って郁人に訊ねようと思い、疑問を呑み込んだ。
話が途切れて沈黙が落ちる。車の音とジャズの音楽だけが空間を支配し、俺はぼおっと流れる景色を眺めた。
「つーか、今日は燥がねえんだな…」
独り言のように小さい声が隣から聞こえ、俺は視線を移した。そして直ぐにあの時のことを思い出し赤面する。
「あ、あれは…っ」
「子どもみてーに笑ってたよな」
「う…」
は、恥ずかしい! 顔を両手で覆って羞恥に耐えていると、両手首を掴まれそっと外される。
「大樹…」
熱に浮かされたような瞳と声に、俺の心臓がばくばくと鳴り出す。縫い付けられたように、目を逸らすことができない。
「ゆ、…じ先輩」
「大樹、す――」
何を告げられるのかと緊張したところで、優治先輩はハッと目を見開いた。
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