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リビングに通された優治先輩は、俺が着席を促すと、さんきゅと小さく笑って座った。向かいに座ろうとすると郁人がさっと座り、目を丸くした。お前…勇気あるな、初対面で真ん前に座れるなんて。
じゃあ俺はその横に、と思って椅子を引くと、優治先輩がじっと俺を見た。何かを訴えかけるような視線にたじろぎながら首を傾げる。
「ど、どうしたんですか?」
「いや…」
一度言葉を濁し、視線を逸らしたかと思うと直ぐに視線を戻して横の席を指差した。……? 訳が分からず眉を少しだけ顰めると、溜息を吐かれた。郁人も溜息を吐きそうな顔でこっちを見ている。え、何。俺だけが分かってないの?
「お前はこっち座れ」
少し不貞腐れたようにもう一度椅子を指差す。俺は漸く理由が分かり、慌ててそっちに向かった。椅子に座ると、満足そうな顔で笑みを浮かべられ、何となく俺も嬉しくなる。……が、何故隣? 話しにくくないか、横って。まあ今は俺というより母と郁人の方が話したそうな感じだからいい、のか…?
良く意味が分からないまま曖昧に頷いていると、頭に何かが乗る。優しく撫でているそれは、間違いなく優治先輩のものだ。毛先を弄って楽しそうに笑っている。
「あ、あの…?」
「あ?」
「えーっと…何をしてるんでしょうか…」
「お前の寝癖触ってる」
「寝癖!?」
そうだ、今日は髪をセットする時間がなかった。恥ずかしさに顔を赤らめるとニヤニヤと優治先輩が意地悪そうな顔をする。顔を逸らして前を向くと、郁人が唖然とした顔でこっちを見ていた。
「い、郁人? どうした?」
今なら口の中に俺の拳一つ入りそうだぞ…。
「そういえばお前らあんまり似てないな」
いや今それどうでもいいわ!
優治先輩の何故今言ったのか分からない台詞をスルーして郁人を再度呼ぶと、ハッとした顔をした後、神妙な面持ちで俺を見た。な、何だ一体。
「あのさ、兄ちゃん…。二人は、先輩後輩の関係なんだよね…?」
視界の端で優治先輩が肩を揺らした。俺は不思議に思ったが何も言わず郁人の言葉に頷く。
「そうだけど。え、何で?」
「いや、だって…」
そこで言葉を区切り、郁人は俺の横に視線を移す。そこでハッと息を飲んだかと思うと、慌ててなんでもないと否定する。俺はまさか優治先輩が不機嫌なんではと思って横を向いたが、特別変わった様子はなかった。
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