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「あらあら〜! 凄く格好いいのね! 大樹がお世話になってます」

 大樹の母親はニコニコしながら俺を歓迎した。どうやら好印象は得られたらしい。少し安心した。

「いえ、こちらの方こそ、大樹くんとは仲良くして頂いています」

 人を君付けで呼んだのは凄く久しぶりなようが気がした。大樹が視線をそわそわと動かせているのを見て、照れているのだろうかと微笑ましくなる。

「凄く礼儀正しいわね」

 未だニコニコと笑っている大樹の母親に苦笑する。これ聞いたら大樹が全否定するだろうな。自分が偉そうな態度とってることは自覚している。大樹の母親の笑顔を見て思ったが、大樹は母親似だな。目尻が特に似ている。大樹が女だったらこんな感じだろうと想像した。
 チラリと大樹を見ると、見たことのない奴とこそこそ話していた。大樹より微妙に幼い顔立ちをしている。弟だろうか。楽しそうに話している様子に少しだけ嫉妬する。兄弟に嫉妬するなんて凄い心が狭いけど。

「お茶でもどうかしら!」

 ぼーっと大樹たちを見ていると、突然大樹の母親が手を叩いてそう言った。その言葉に数秒固まる。

「――ちょ、ちょっと母さん。何言って」
「あっ、それいい! 俺も賛成!」
「郁人まで!」

 大樹は俺の様子を窺うようにこっちを見た。この視線はきっと怒っていないか心配しているものだ。この視線を向けられるのは少し悲しい。最初の方の態度が悪かった所為だが、俺はこんなことで大樹に怒るわけがない。それ以外の奴だったら不機嫌くらいにはなったかも知んねえけど。

「宜しいんですか?」

 問うと、頷かれる。俺は大樹のまだ少し心配そうな顔に、ニヤリと笑ってみせた。これで怒ってないと分かってくれたらいいんだけど。











「迷惑だったか?」

 大樹に問いかけると、力強く否定された。嬉しくなって大樹の少し寝癖のある髪をぐしゃぐしゃと撫でた。目を瞑って撫でられたままでいる姿が可愛すぎてやべぇ。

「…にしても、ここがお前の家か。ふーん…」

 俺の家にはないものが多い。率先してこういう家に入ることはなかったから、凄く新鮮だった。大樹の家っていう理由も勿論あるけど。

「そうだ、この服」

 俺はそう言って大樹の服を観察する。――この服、あの時のものだ。着てくれているのかと嬉しくなった。

「この服、有難うございます。ちゃんとした礼もしないままですみませんでした」
「いや、いいんだ。…やっぱ、お前にその服似合ってんな。流石俺様」

 得意げに笑うと、微妙に苦笑された。……なんでだ。

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