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(side:優治)




 俺はこんなにも緊張する奴だったかと思わず苦笑してしまう。昨日は何も手を付けることができないくらいそわそわしてしまった。使用人たちに物珍しそうに見られた後、生温かい目で見られ、居た堪れなかった。
 何を着ていけばいいかとクローゼットを睨み暫し悩む。大樹はセンスが良かったのを思いだし、尚更変な服は着ていけねえなと笑う。女でもあるまいし、あんまり着替えに時間をかけるのもなと思って気に入っている服を取り出し、さっと着替えた。

「坊ちゃん、本日はどちらで待ち合わせを?」
「学校だ」

 車に乗りながら運転手に告げると、不思議そうに首を傾げられた。

「態々学校の方に?」

 ――そりゃ、大樹の家に直接行った方がいいけど、俺は大樹の家の場所を知らない。訊くのを忘れてたとかじゃねえから。断じて。

「高浜様のご自宅に向かいましょうか」
「は? 何言って」
「失礼ながら、調べさせていただきました」
「……ッチ」

 申し訳なさそうに言われ、俺は舌打ちをして顔を逸らす。大方、というか絶対に親父の命令だろう。大樹が俺の家目的で近づいていないか。そういえば京の時は近づくなとか趣味が悪すぎるとか言われたな。あの時は怒り狂ったが、よく考えてみたら俺もそう思う。――大樹のことについて、何も言われなかったってことは、…つまり。俺は思わずにやりと笑う。もう趣味が悪いなんて言わせねーぜ、親父。
 車が動き出す。俺は携帯を取り出し、大樹宛にメールを書く。驚くだろうなと笑いながら。










 大樹の家は、普通の家だった。以前の俺だったら何て小さな家だと鼻で笑ったかもしれないが、ここに大樹が暮らしているというだけで何だか特別に見える。
 それにしても、だ。……ここには大樹の親もいる。これからのことも考え、あんまり偉そうな態度はダメだろう。息を吐いてチャイムを鳴らすと、はーいという女の声がした。ドアが開く。どたどたと足音がした。
 目元が柔らかく下がっている垂れ目の女性が顔を出す。

「――初めまして、桜田優治と申します」

 奥の方に呆然とした顔の大樹が見えた。先ほどの足音は大樹のものだったのだろうか。

「よう、大樹」

 目を丸くし、ぽかんと口を開けてこっちを見る大樹が可愛くて笑うと、顔を赤くした。…その反応、期待していいわけ?

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