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 な…んて顔するんだこの人は! 恥ずかしくなって顔を逸らす。

「うっわ、すげぇイケメン…」

 いつの間に隣にやって来たのか、郁人が感嘆の声が聞こえる。

「あらあら〜! 凄く格好いいのね! 大樹がお世話になってます」

 完全に恋する乙女のような顔で優治先輩を見つめている。何だか複雑な光景だ。

「いえ、こちらの方こそ、大樹くんとは仲良くして頂いています」

 大樹くん、だって。聞き慣れない呼称にムズムズしていると、郁人が興奮した様子で俺の肩を揺する。

「兄ちゃん、あの人が本当に前言ってた人なの!? 全然印象違うんだけど!」
「お、落ち着け。俺もこんな先輩見るの初めてだから驚いてる」
「金持ちで背高くてあの顔って…完全勝ち組だなぁ…う、羨ましい」
「そんなこと言ってお前も顔整ってんだろ」
「いやいや、でも兄ちゃんもモテるじゃん」
「んなことねえって」
「ていうかあの人本当に兄ちゃんの一つ上? 全然違うんだな…」
「おい、どういう意味だよ」

 二人でこそこそとそんな話をしていると、母の予想外の言葉が俺の耳に届いた。

「お茶でもどうかしら!」

 えっ。

「――ちょ、ちょっと母さん。何言って」
「あっ、それいい! 俺も賛成!」
「郁人まで!」

 俺は優治先輩の様子を窺う。こういうの、あんまり好きじゃないんじゃないだろうか…? 下手して機嫌を損ねてしまったらと思うと緊張する。

「宜しいんですか?」

 不機嫌な様子は伝わってこない。ホッと息を吐く。いや、ていうか宜しいんですか、ってもしかして上がるつもりっすか…?
 母が頷く。優治先輩は母に是非と返事をし、俺の方を向いてニヤリと笑った。














「迷惑だったか?」

 優治先輩は俺に近づいてくると、少し申し訳なさそうに眉を下げた。俺はぶんぶんと首を振って否定する。ぐしゃりと頭を撫でられた。

「…にしても、ここがお前の家か。ふーん…」

 物珍しそうにキョロキョロする。優治先輩が俺の家にいるなんて、少し前までは全く予想がつかなかったことだ。何だかここが家だということを忘れそうなくらい、存在が浮いている気がする…。

「そうだ、この服」

 優治先輩は思い出したように俺の服を見た。俺は少し照れながら優治先輩を見上げる。

「この服、有難うございます。ちゃんとした礼もしないままですみませんでした」
「いや、いいんだ。…やっぱ、お前にその服似合ってんな。流石俺様」

 機嫌良さそうに笑う優治先輩に俺も笑う。……まあ、最後の一言は苦笑させられるものがあるけど。優治先輩らしいっちゃらしいけどな。

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