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「あら、今日は早いのねー」
「先輩の家に行くんだってさ!」

 ニコニコと笑っている郁人は、何故か金持ちの家だよと興奮している。お前が行くわけじゃないんだぞ。
 俺は呆れながら席に着く。郁人も直ぐに隣に座ってきた。

「そうなの? 早く言ってくれたらお菓子買ってきてたのに」
「いいよ、優治先輩甘い物嫌いだから」
「おー! 何か漢って感じする!」

 目を輝かせる郁人に、そうか? と首を傾げた。別に人が何食べようが勝手だろ。……まあ、優治先輩が笑顔でケーキとか食べてたらかなりのギャップがあるけど。

「どんな子なの?」

 興味津々な様子の母。パンが焼ける音がし、時間もかからず運ばれてきた。その横で俺も気になると言っている郁人。……ん?

「お前、この前後つけてただろ?」
「げ、バレてたの?」
「寧ろバレてないと思ってたのかよ」
「完璧だと思ってましたー。っていうか、あの時遠くからだったからよく見れてないんだよ。背が高いってことぐらいしか分かんなかったな」

 で、どんな人? と首を傾げる。俺は少し視線を彷徨わせてから口を開いた。

「凄い格好いいよ(常時眉間に皺寄ってるけど)。あと…や、優しい?(最初睨まれたり暴言吐かれたり暴力振るわれたりされたけど)」

 一応イメージを悪くしたり心配したりしないように言えば、途端に母が顔を綻ばせた。

「へえ〜。今度家に連れてきなさいね!」
「はいはい」

 余談だが、母は面食いである。












 食事を済ませ、服を着替えていると、携帯が震えた。メールが来るのは大体メルマガか愛たちなので、取り敢えず服を全部着終えてから携帯を手に取った。開き、新着メールの送信欄を見てぎょっとする。優治先輩からだ。
 慌ててメールを開くと、今から迎えに行くという文章だけだった。……ええ!? いやいやいや、何故!? 待ち合わせって確か学校だったよな!? ていうか優治先輩に住所教えた記憶ねーよ!
 ――ピンポーン。
 家に響く軽快な音。……ま、まさかな…? 窓に近づいて覗くと、いつぞやに見た黒のリムジンが…。階段を駆け下りると、丁度母が玄関のドアを開けたところだった。

「――初めまして、桜田優治と申します」

 ドキリとした。いつものあの偉そうなオーラが全く感じられない。母も視界の片隅で固まっているのが見えたが、俺もそれどころではない。優治先輩は軽く会釈をすると、俺を見た。

「よう、大樹」

 その愛しいものでも見るような視線に、俺は情けなくも顔を真っ赤にした。

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