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 ――時が過ぎるのはあっと言う間で、もう週末だ。俺はそわそわとしてしまい、夜中々眠りにつくことができなかった。良い歳して楽しみで眠れないとかどうかと思うが……。楽しみというより、緊張と言った方が正しいかもしれないな。
 少し眠かった上に時間も早かったが、どうやっても眠れないので仕方なく体を起こす。
 さて服は何を着ようと思ったところでハッとする。そうだ、何を着たら…。チラリとあの時買ってもらった服を見る。そういえばちゃんとしたお礼してないよな俺…。あのまま帰ってしまったから、返すタイミングを完全に失ってしまったし。あんまりぶり返すようなことを言うのも…。……これ、着て行くか。そしてちゃんとお礼をしよう。汚してはいけないから、着替えるのは後にするか。
欠伸をしながら部屋のドアを開けると、丁度郁人も出てきたところだった。何だかデジャヴを感じる。郁人は目を丸くして 俺をじっと見た。

「兄ちゃん…今日、何かあるの?」

 開口一番の台詞がそれか! しかし、事実なので苦笑するしかない。

「あー、まあ、な」
「……まさかとは思うけど、前のあの人じゃないよね?」

 ギクリと体を強ばらせる。これではそうですと言ってるようなものだ。ほとほと呆れたように溜息を吐いて、目を釣り上げた後、口を開く。俺は何を言うのか想像がついてしまい、慌ててそれを遮った。

「兄ちゃん、俺もいk」
「ゆ、優治先輩とはもう和解っていうか、普通に仲良くなったんだ。だから郁人、もうあのことはいいから」
「……嘘っぽい」
「いやいや本当だって! この前だって絡まれてる時に助けてくれたし、最近凄い優しいんだ」
「え〜…そんな直ぐに態度変えるなんて変だよ。何か裏があるとか」
「いや、先輩に限ってそれはないと思うけど」

 瞳や愛を睨む姿を思いだし、苦笑いをすると、まだ納得のいかなそうな顔をした郁人が渋々ふーんと頷いた。

「まあ兄ちゃんがいいなら俺は何も言わないよ。それで、今日はどこ行くの?」
「実は優治先輩の家」
「えー! 家!?」

 目を真ん丸にして驚く郁人の顔に笑みを漏らす。本当に? と疑いの目で見てくるのを本当本当と笑いながら流していると、郁人も笑った。

「兄ちゃん、楽しそうだね」
「え?」
「愛さんとか瞳さんと遊ぶ時より何か楽しそう――って言ったら、二人に怒られちゃうな」
「いや、別にそんなに楽しみとかじゃなくて、ほら、先輩の家金持ちだし。興味あるっていうか」
「ふーん?」

 何故かニヤニヤしている郁人に溜息を吐いてさっさと階段を下りる。ごめんごめんと軽い謝罪が後ろから聞こえたので、俺はもう一度溜息を吐いた。

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