お出かけ


 あれから一週間と数日が経った。優治先輩とは週に二日しか会ってない……ことはない。放課後はあそこに行っているからだ。勿論遊びに行っているわけではない。優治先輩にできた新しい好きな人と結ばれる為のアドバイスを頼まれたからだ。初対面の時とは違い、偉く緊張し、畏まった態度だった。今度の恋はかなり真剣なのか、或いは相手が手強いのかもしれない。……というか、今回もまた男なんだろうか? それなら誰でも手強いな…。まず気持ち悪いと思ってしまう奴もいる筈…。
 ――あれ、そういえば俺…優治先輩にキスされた時、気持ち悪いって思わなかったような…?
 無意識に口元に手を遣ってしまい、慌てて手を下げた。

「どうした?」

 優治先輩がカレーパンを持ったまま首を傾げる。何でもありませんと苦笑し、俺も箸を進める。そしてチラリと優治先輩を見る。片手にカレーパン、右手にスポーツ飲料水…やはり、見慣れない光景だ。オススメのパンを教えてくれと頼まれ、一番好きなカレーパンを言ってみると、どうやら甚く気に入ったらしく、あの時からカレーパンしか見ていない。まさか、毎日食べてるとは…ないだろう。うん。流石に飽きるよな。

「……ああ、そうだ、大樹」
「はい?」
「あー…その、む、無理ならいいんだがな?」
「はい」

 もごもごと珍しく声を小さくして俯いている優治先輩を急かさずに待っていると、意を決したように顔を上げた。

「こ、今週末どっか行かねえか」
「え?」

 突然の誘いに目を丸くする。以前出かけた時の記憶が蘇り、一瞬顔を顰めてしまった。それを見逃さなかった優治先輩が慌ててもう一度言った。

「いや、嫌ならいいんだ」
「あ、いえ――大丈夫ですよ。ええと、どこに行くんですか?」

 笑顔を浮かべると、ホッとしたように優治先輩の顔が弛む。

「そうか。……そうだな、お前はどこに行きたい?」

 え、と声を漏らす。お、俺の行きたいところ……? ついこの間までは荷物持ち限定だったのに、まさか俺に選択の権利が与えられるとは。
 いや、しかし…行きたい場所と言われても。興味ある場所はあるんだけど、OKしてくれるかどうか…。

「あの、優治先輩の、家…とかダメですか?」

 金持ちの家とかって一度は入ってみたい。ダメ元で言ってみたが、やっぱり無理だよなー。

「なーんて、じょうだ…」
「いいぜ」

 えっ、いいの!?

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