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 それにしても、連絡交換しておいて良かった。携帯を仕舞いながら早くこの場を去りたいなあと溜息を吐くと、矢張り京は噛み付いてきた。

「おまえ、ためいきつくし無視するしサイテーだ!」
「うっ…」

 ぜえ、と思わず漏れそうだったのを慌てて抑える。ここでうぜぇとか言ったら更に面倒なことになることはもう理解している。

「ごめん」

 とりあえず謝ってみれば、おれはやさしいから許すんだぞとかなんとか言って妙に誇らしげに胸を張っている。もうそれでいいから俺を解放してくれよ。

「大樹!」

 後ろからすっかり聞き慣れた声がすると京は大きく口を開けて笑った。

「あっ、ゆーじ!」
「…っ、京」

 驚いたような声に俺は振り返る。
 俺の体で隠れていたらしい京を視界に入れた優治先輩はこの状況に困惑しているようだ。直ぐに近寄ってくると、俺に小さく大丈夫だったかと訊ねてきた。俺は曖昧に笑って頷く。

「おれに会いにきたのか!」

 疑問形ですらない。相当自分に自信があるというか、思い込みが激しいというか…。今この状況でどうして自分に会いに来たと思えるのだろう。
 まあ優治先輩はこいつが好きだったのだから、それなりに期待させるようなことをさせたのかもしれないけど。……それにしても趣味悪いなこの人。今更だけど。思いながらチラリと優治先輩を見る。

「…京、俺は大樹に会いに来たんだ」
「てれなくっていいって!」
「いや、だから」

 見るからにイライラし始めている優治先輩と自意識過剰な京、そしてその間に挟まれている哀れな男、俺。
 こいつら何やってんだとか会長格好いいとかそんな感じの視線が突き刺さる。あと、京を見てあからさまに顔を顰めている奴が多い。こいつ嫌われてんだろうなあ…。そう考えると少しかわいそうに…は見えない。

「あっ、ひろきっておまえのこと!? ふーん、ひろきっていうのか!」

 うおおおおお名前バレたぁああ。
 優治先輩が舌打ちをした。俺も舌打ちしてぇ…。つーか馴れ馴れしく呼ぶんじゃねえよ。

「呼ぶんじゃねえ」

 そうそう…呼ぶんじゃ…、え?
 目を丸くして優治先輩を見ると、京を睨みつけている。びくりと京が肩を震わせた。

「こいつの名を呼んでいいのは俺様だけだ」

 優治先輩…。
 親も友人も割と呼んでますけど……とは流石に空気を読んで言わなかった。

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