思わず頷く



(side:大樹)

 矢張り、優治先輩の様子がおかしい。人が変わったように俺に対する態度が急変している。俺が連絡先を交換したいって言ったのは、別にメールとか電話とかして仲良くしたいわけじゃない。教室に来られたら困るからだ。教室の雰囲気だって悪くなるし、愛と瞳も嫌がる。俺が突然そう言ったことにもっと顔を顰めるかと思っていた。しかし、交換して携帯の画面を見つめる優治先輩の顔は、凄く優しくて――。俺は赤くなる頬を必死に誤魔化しながら、控えめに申し出る。

「あー…えっと、こう言うのも何ですが、教室に来るのはできるだけ控えてくれませんか?」
「あ? 何でだよ」

 うっ。やっぱり怖い。俺は顔を引き攣らせてしまう。それに気づいたのか、一瞬だけ眉を顰めようとして、元の顔に戻る。

「何で行ったらいけねえんだ?」

 声が優しくなった。ほっと息を吐く。それにしても、どうして来ようとするんだ? 俺にはその理由が分からない。もしかして今まであの京という奴と共に食事をしていたのだろうか? それならば、今は好きじゃないと言っているし、あのしつこさだ。もう一緒に食べたくないのかも。…でも、一年の教室に来たら会う確率はぐっと上がりそうだけど、いいのか? 見つかったらまた煩く言いそうだし、今日の昼みたいに教室に来られたら迷惑の何物でもない。

「す、すみません。クラスの奴が緊張するみたいで」

 優治先輩はあからさまに嫌そうな顔をする。何でそんなこと気にしなければいけないんだ、とでも言いたそうだ。
 結局意図は分からないが、どうかこれで諦めてくれと願う。ところが、優治先輩はとんでもないことを言い出した。

「じゃ、ここで食べようぜ」
「えっ」

 俺は目を丸くした。それに笑みを漏らす優治先輩の格好良さに顔が熱くなる。く、くそ…本当に美形だな、この人…。

「で、でも」
「あの女達のことか」

 ぎくりとする。そう、愛と瞳が許すはずがない。…って、いや、寧ろどんどん反対してくれって言った方がいいのか。少しだけどうやったら説得できるだろうと考えてしまった。

「え、あ、はい…」

 何とも言えない気持ちの中頷くと、少し考えるような素振りをして、優治先輩は口を開く。

「……週二日でいい」
「二日?」
「その二日だけは、俺様と一緒に食べてくれよ」

 ――週、二日。
 その時の優治先輩の顔は凄く切なくて、俺は目を見開いたあと、静かに頷いた。

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