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 あくまで平然と、さりげなく携帯を出す。

「赤外線でいいか?」
「あ、はい。俺から送るのでちょっと待ってください」

 急いで操作している大樹を微笑ましい気持ちで見下ろしながら、俺も受信の準備をする。今までの俺だったら大樹の連絡先を知ってどうすんだよと鼻で笑っているだろうが、今は違う。携帯の中に大樹の情報が入っていることに喜びを――って、俺キメェ。
 大樹が携帯をこちらに寄せてきたので、俺も合わせる。直ぐにデータを受信して、大樹のアドレスを眺める。access0725@×××……この中に使われている数字が大樹の誕生日である確率は高い。
 俺も先程と同様にデータを送信し、喜びを感じながら携帯を仕舞った。しかし…連絡の交換を自ら申し出てきたってのは意外だったな。

「あー…えっと、こう言うのも何ですが、教室に来るのはできるだけ控えてくれませんか?」
「あ? 何でだよ」

 ムスリと顔を顰めると、予想以上に顰めっ面だったのか、大樹が少しだけ顔色を悪くする。俺は舌打ちをしたい衝動を抑えながらもう一度、今度はできるだけ優しく問うた。

「何で行ったらいけねえんだ?」
「す、すみません。クラスの奴が緊張するみたいで」

 どうしてそんなこと大樹が気にする必要があるんだ。思わず口から出そうだったが、こういう自己中っぽい発言は大樹の機嫌を損ないかねない。ぐっと喉に言葉を押し込んだ。
 確かに、空気は悪かった。チラチラとこちらを窺う姿は、苛立つだけだ。でも俺は接点なんて殆どないわけだから、せめて昼食くらいは共にしたい。そこで俺は気づく。

「じゃ、ここで食べようぜ」
「えっ」

 大樹が目を丸くする。俺の言葉が予想外だったらしい。俺は気を良くして笑顔を浮かべた。それに顔を赤くする大樹を見て更に気分が良くなった。

「で、でも」
「あの女達のことか」
「え、あ、はい…」

 大樹の言いたいことは分かる。一緒に食事している奴がいるんだから、そいつらと食べたいんだろう。ここに呼べばいい話だが、あの女達が嫌がるのは目に見えているし、俺だってここに呼びたくない。

「……週二日でいい」
「二日?」
「その二日だけは、俺様と一緒に食べてくれよ」

 大樹は俺の顔を見た。俺がどんな顔をしていたのか分からないが、目を見開き何度か瞬きをした後、小さく頷いた。

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