舞い上がる俺様会長







(side;優治)

 大樹には失礼だが、付き合ったりしてないかと訊ねた時、そんなことはないだろうと内心否定していた。それが、言いにくそうに付き合っていたと言うので驚いた。しかも二人共とだなんて意外すぎる。いや、俺が好きになった男だ。魅力がないなんてこと言わない。これから大樹のことを色々知ればもっと長所が見えてくるだろう。しかし。しかしだ。俺は何だか納得がいかなかった。経緯はどうであれ奪ったあのキスがファーストキスだったらいいのにと思っていたのに。彼女がいたんじゃあ、流石にキス未経験なんてことはないだろう。それにあの気の強そうな女なんて、さらっとキスしそうだ。

「優治先輩…?」

 大樹が首を傾げ、不思議そうに見上げてくる。俺はうっと一瞬固まってなんでもないと引き攣り笑みを浮かべる。そりゃお前は意識してねえからいいけどよ、俺はお前のこと意識してんだからそういう上目遣いとか…あー…ダメだ、こいつは俺の気持ちなんて全然気づいてねえからな。
 そもそもこいつに、その気がないと俺にはどうしようもない。下手に近づくと、拒絶されてそれこそ今の関係だっておジャンだ。
 そういえば俺がキスした時、嫌がらせがどうとか言ってたよな…。もしかしてこいつの中で今でも俺は平気で人を傷つける人間だと思っているんじゃ…。いや、それは否定しねえけど、もう大樹を殴ったり蹴ったりはしない。俺は結構一途なタイプなんだぜと声に出さず呟いた。

「それにしても別れてんだろ? そういう雰囲気なかったな」
「まあいい友人ですからね、今は」
「ふーん…?」

 それにしては過保護だった気がしたが。あの大人しそうな女だって、いやに俺に反抗してきた。それに――そうだ、あの気の強い女。愛とか言ったか。あいつ、俺が大樹を好きなことに気づいているかもしれねえ。厄介だ。あの敵意は…。それに、もし復縁しそうになった時女と男じゃ、完璧不利だ。負ける気は勿論ねえけど。
 兎に角これからは周りをよく見て行動しねえと。京のことも、どうにかしなければいけないということは分かっている。だがあいつの頑固さは充分理解している。中々骨が折れそうだ。

「あ、そうだ、優治先輩、えーと…携帯持ってます?」
「? 持ってるが…」

 ――ハッ、これはもしかして…!
 期待を込めた目でじっと大樹を見つめると、少し居心地が悪そうに視線を彷徨わせておずおずと携帯を取り出す。

「良ければ連絡を交換したいなと…」

 ッシャ!
 俺は心の中で思いっきりガッツポーズをした。

[ prev / next ]

しおりを挟む

10/59
[back]