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結局逃げるように教室を後にして、俺はいつもの場所に向かった。チャイムを鳴らすと、まるで待ってましたというようにドアは直ぐに開いた。まさかこんなに早く開くとは思っていなかった俺は、驚いて硬直する。そんな俺に眉を顰め首を傾げると、手を引いて俺を屋敷内に招き入れた。
 パタンと後ろでドアの閉まる音がした。俺はまだ手を放さない生徒課長の手をじっと見つめる。すると何故か掴む力が強くなった。

「大樹…お前、気づいたよな」

 直ぐに京のことだと分かった。俺は繋がれた手から視線を外して生徒会長を見ると、苦笑する。

「はい、まあ…」
「……引いたか?」
「えっと、相手が男だってことをですか…?」

 ああ、と言うように生徒会長は頷く。俺は返答に困った。だって、下手なことを言ったら怒らせてまた殴られてしまうかもしれない。今日はまだ殴られていないから、これからもこのまま無傷でいたい。

「や、あの…人それぞれ、ですし」
「そうか…」

 生徒会長は安心したように微笑んだ。俺はどきりとして思わず顔を逸らす。おかしい。どうして俺にそんな顔を見せるようになったんだこの人。同性なのにうっかりドキドキしてしまうじゃないか。美形って恐ろしい。

「あいつは京っつって…確かに、好きな奴だった」

 ん?
 俺は生徒会長が言った言葉に違和感を覚える。好きな奴だった? 何で過去形――……。あ、生徒会長があいつに冷たかったのはもしかして…?

「でも…今は違う奴に惚れてる」

 惚れてる、というところでこちらを見てくるものだから、またしても心臓がぎゅっと掴まれたような感覚になる。紛らわしい。いや、というか俺が勘違い男なだけか。恥ずかしい。

「……そうだ、お前、俺様の名前知ってるか?」
「えっ!?」

 何故そんな話に!?
 俺は目を見開いて生徒会長を見た。一瞬で不機嫌な顔になり。じろりと睨まれ、俺は青ざめた。

「んだよ、その反応。まさか知らねえとか言うんじゃねえだろうな!?」
「え、えっ…と! えーと…あっ、桜田先輩、ですよね?」
「…あっ、って何だよ。で、下の名前は?」

 俺は黙る。自然と顔が俯き、どうしようと焦る。頭上から溜息が聞こえ、更に青ざめた。これはヤバイ、と思ったが、しかし思っていた衝撃とは違い、頭に何かが乗った。生徒会長の手だ。小さい子をあやすように、ポンポンと優しく叩いている。俺は顔を上げた。

「――桜田優治だ。優治って呼べよ、大樹」

 そう言って、柔らかく微笑んだ。

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