混乱







 京は口をきゅっと結んで、教室から飛び出して行った。出て行く際にこっちを睨んだような気がしたのは、被害妄想ではないだろう。俺は微妙な気持ちでそれを見送る。何故俺が言ったわけじゃないのに俺が悪いみたいになってんだ…。っていうか、生徒会長もどうして好きな奴にあんな怖い顔で…。照れているわけじゃなさそうだ。だけどあのラブレターや好きな奴の話は、確かに優しげな顔をしていた。

「大樹」
「は、はい?」

 張り詰めた空気の中、生徒会長が静かに俺を呼ぶ。びくりと肩を震わせ答えると、少し視線を彷徨わせて生徒会長は苦笑した。

「…悪かったな、騒がしくして」
「え?」

 こうもあっさりと謝るとは思っていなかった。というか、もともと謝ってもらうつもりなどなかったのに。だって、騒がしくしたのはあの京って奴だし。

「いえ…」

 何だかどこか落ち込んだ様子の生徒会長にムズムズとしながら、首を小さく振る。

「俺様は帰る。邪魔したな」

 そう言うと、歩き出した生徒会長。俺の横を通り過ぎる際、放課後、いつもの場所に来いと囁き、ハッとして生徒会長を見た。そこで京って奴のことを話されるのか…? 俺は少しだけ眉を顰めて、生徒会長の背中を睨んだ。
 良く分からないけど、京という奴は好きではない。そしてあんな奴を好きな生徒会長も――何だか、嫌だと感じた。
 俺は溜息を吐いて、机に突っ伏す。今は誰からも話しかけられたくなかった。













 時間というのは嫌だと思うほどあっと言う間に過ぎるものだ。俺は憂鬱に感じながら帰りの支度をする。そこに愛がやってきて、笑顔で話しかけてきた。

「大樹、帰りにどっか寄ってかない?」
「……あ、ごめん、今日はちょっと」
「…何、何か用事でもあるの?」

 途端に下がる愛のテンション。怒りがビシビシと伝わってきて、愛はもしかしてこれから俺が生徒会長と会うことに感づいてるかもしれないと思った。どうも愛と瞳は生徒会長が気に入らないようで、生徒会長が去った後、文句を言っていた。クラスメイトに俺と生徒会長の関係について問われたが、俺はなんとか誤魔化した。その誤魔化しも、きっと二人には通用していない。

「……最近放課後ずっと帰れなかったのはもしかしてあの人と会ってたからなの?」
「えっ…」

 ぎくりと顔を強ばらせる。目をすっと細めた愛は、冷めた表情のまま呟いた。

「何で…あの人が大樹を独占してんのよ…」

 その時の愛の表情は見るからに苦しそうで、俺は何も言葉をかけられなかった。

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