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 生徒会長は俺を一瞥した。目が合い、ドキリとする。こんなに気まずそうな顔をした生徒会長を見るのは二度目だ。それほど親しい仲でもないが、少し関わってみれば分かる。自信に満ち溢れている人だから、滅多にこんな表情しないだろう。
 俺はそこではっとした。
 『黒く野暮ったい髪を煌かせて歩く君の姿に俺はノックアウト。お前の鼓膜を破く勢いの声も、重そうなダサい眼鏡も目が見えないほどボサボサな長い髪も、食べる時にペチャクチャ音を立てて、しかもぼろぼろと食べ物を零す姿も、お前のことを知れば知るほど胸が高鳴る――以下略』と、最初の手紙(生徒会長が言うにはラブレター)には書かれていた。目が見えないほどボサボサな黒く野暮ったい髪、鼓膜を破く勢いの声、重そうなダサい眼鏡。俺は今一度京と呼ばれた少年を見た。外見も煩い声も合致している。それに、こんな非常識そうなんだから、食べる時に音を立てたり零したりするのなんて容易に想像できる。……いや、まさかな。小柄ではあるけど、どう見ても体格は男だ。こんな女を選り取り見取りできる程の男前が、男に恋? そんなことあるわけが……。ない、とは言い切れなかった。生徒会長は俺にキスをした。更に、それは礼のつもりだったと言っている。
 頭に警報が鳴り響く。これ以上考えてはならない、そう思うのに俺は口を開かずにはいられなかった。

「生徒会長さん、あの手紙は――」
「……っ!」

 生徒会長はびくりと大袈裟に肩を揺らし、バッと俺を見る。その目は見開かれていて、少し青ざめているように見える。その反応はつまり、肯定を表しているということで…。

「なんだよお前? ゆーじはおれと話してんの!」

 いやお前が一方的に話しかけているだけだろ、と顔を顰める。どうやらそれがお気に召さなかったようで。ずかずかと大股で俺の近くまで来るといきなり拳を振り上げてきた。
 危ない、だとか悲鳴が聞こえる。ああ、俺殴られるんだ、なんてどこか他人事のように降りかかる拳を見ていた。

「京!」

 生徒会長の鋭い声が教室中に響き渡る。ピリピリとした雰囲気が空気を支配し、誰もが口を噤む。京という少年はびくりと体を震わせて恐る恐る生徒会長を見る。

「な、なんで怒るんだよゆーじ…? だって、こいつ…!」
「京、出て行け」
「やだ! 何でそんなこと言うんだよ!」
「出てけっつってんのがわかんねえのかよ」

 聞いているだけで震える低い声。睨みつける鋭い視線。京という少年は隠されていても分かるほど青ざめていた。かくいう俺も、皆も。

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