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 一体どんな心境の変化だと問い質したくなる。しかし、どうやら機嫌が良いようだから、それを態々悪くする必要はないだろう。俺は再び弁当に視線を落とし、箸で具を摘んだ。

「会長もコンビニとか行くんですね」

 先程俺が思ったことを口にする高野。生徒会長はパンの袋を開けながらジロリと高野を見る。俺は頼むから怒らないでくれよと思いながらパンに視線を移す。そしてパンを見てぎょっとした。ジャムパンって…え? 生徒会長って甘いもの好きそうに見えないんだけど、意外に好きなのか?

「初めて入ったけどなんか文句あるかよ」
「え? いや、別に…」

 きょとんとする高野。お前…生徒会長の睨みに対してそんな顔できるなんて大した奴だぜ…。感心しながら高野を見ていると、いきなり生徒会長がこっちを向く。俺は一瞬で顔を逸らした。

「おい、何で逸らすんだよ」
「な、何でもありません…」
「何でもないならこっち向け」
「いやぁ、あはは…」

 顔が引き攣る。何だよ、何で俺に構うんだよ…。しかし、あまり嫌がってない自分もいて、困惑する。

「大樹」
「――っ!」

 びくりとする。俺は思わず生徒会長の方を向いていた。目が合い、視線が逸らせない。

「やっと向いたな」

 ふ、と笑うと今度は生徒会長が顔を背けた。俺は朝も見たその優しげな表情に顔を赤くする。何か、調子狂う…。赤くなった顔を見られないように少しだけ俯き、チラリと生徒会長を見る。ジャムパンを口に含み――固まった。しかも青ざめている。

「んだよこれ、クソ甘ぇ……」

 どうやら、甘いものは好きじゃないようだ。じゃあ何でジャムパンを、と思ったが、もしかしてジャムパンを知らない…? ま、まさかな…。でもコンビニに入ったことすらないと言うのだから、強ち間違いでもないかもしれない。

「…ッチ、おい大樹」
「はっ、はい?」

 ずい、と一口囓られたパンを目の前に持ってくる。訳が分からず生徒会長とパンを交互に見たら、やる、と一言。 

「え、でも…」

 ほら、それ食べかけだし…。

「食えねえってのかよ」
「そういうわけじゃ…」
「嫌がってるのに無理矢理食べさせようとするなんて最低…」
「あ?」

 瞳がぼそっと呟いた一言で空気が固まる。生徒会長は不愉快そうに眉を顰める。それに少し怯えた顔をしたが、必死に睨み返す。俺は慌てて制止の声をかけた。

「瞳、やめろ。あの、それ、食べますから」
「ヒロくん!」
「初めからそう言えよ」

 ニヤリと笑う生徒会長に少し腹が立ったが、瞳から視線が逸らせたから良かった。まあ、当の瞳は納得いかない顔をしているけど…。

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