一緒にお昼








 早足で教室に戻ると、もう授業が始まっていた。がっくりしながらドアを開ければ、視線が一斉に集まる。

「ああ、高浜か。桜田から話は聞いている。座りなさい」
「はい」

 俺は一度首を傾げそうになる。桜田――そうだ、生徒会長のことだ。納得して頷き、自分の席へと足を動かす。皆俺と生徒会長にどんな関わりがあるのか興味津々な視線で見てきて、居心地が悪い。
 しんとした教室の中椅子を引く音だけが響く。椅子に座るのを確認した担当の教師が再び解説を始めた。途端に視線は散らばる。高野が振り返り、俺の顔やら体を一度見回すと顔を寄せて小声で話しかけてきた。

「何もされてないよな」
「ああ、大丈夫」

 良かったとまるで自分のことのように安心した顔をする高野の人柄に感動していると、頭に何かがコツンと当たった。

「……ん?」

 丸められた小さな紙屑。飛んできた方向をキョロキョロと探すと、愛がじっとこっちを見ていることに気がつく。投げたのは愛で間違いないだろう。

「姫川、大樹が会長に連れられて行ってから凄く心配してたぞ」

 勿論由良と俺もだけど、と付け加える。俺は黙って紙屑を広げると、書き殴りされたような、でも綺麗な力強い字でこう書かれていた。

『何かあったんだったら、ちゃんと話してよね! 私に!』

 俺は顔を上げて愛を見ると、笑顔を漏らした。










 昼休み。いつものごとく俺と高野の近くまで弁当を持ってきた愛と瞳。二人が人の席に遠慮なく腰掛けるのはもう毎日のことなので、誰も気にしていない。

「それにしてもさ、会長ってやっぱ格好いいよなー」

 愛が卵焼きを箸で掴みながら、ぼんやりと言った。俺は突然の生徒会長に関する話題に一瞬ピクリと反応し、瞳はその発言にむっと顔を顰める。

「私嫌いだよあの人」
「私だって好きじゃないけどさ。一般論っていうか…。私は大樹の方が好きだよ」
「そりゃどうも…」
「あ、照れんなって」
「照れてねえ!」

 ハッとして顔を逸らす。愛がニヤニヤしている様子が見なくても分かる。気まずくなって頭をがしがしと掻く。そして有り得ないものが目に入り、呆然とした。

「? どうしたの、大樹――」

 愛たちも不思議そうに俺の見ている方向を向いて、目を丸くした。そこには――。

「よう、大樹」

 やはりナチュラルに俺の名前を呼んでいる生徒会長がいた。


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