会長の好きな人





(side:大樹)





 俺は呆然と瞳を見遣って、ハッとする。

「お、おい!」

 止めなければ、と瞳に慌てて制止をかけるが、そんな俺を無視して瞳は生徒会長をじっと睨んでいる。怖いのか、少し体が震えているのに気づいた。
 そうだ、愛は…。と思って教室を見回すと、黙ってこっちを見ている。止める気はないようだ。無表情で会長を見ている様は、見たことないほど冷徹だった。
 教室は、朝の活気づいた教室と別世界な程、静まり返っている。

「ヒロくんに何の用ですか」
「……別に、テメェに関係ねえだろうが」
「関係あります。だって私は――」

 瞳はそこまで言うと俯き、震える声で言った。

「私は、ヒロくんの友達だから…」

 瞳、と呼ぼうとして口を噤んだ。俺にその弱々しい背中を抱き締める権利はない。瞳の気持ちを知っているからこそ、中途半端な優しさは毒だ。
 先程より一層不機嫌そうに顔を顰める生徒会長は、俺を一瞥して瞳に視線を戻した。俺は目が合った瞬間ドキリとし、ぎゅっと手を握る。

「ちょっと話をするだけだ。何もしねえ。…約束する」
「えっ…」

 俺は思わず声を漏らして目を見開き、生徒会長を凝視した。こんなに真剣な表情をした生徒会長は、初めて見る。俺がアドバイスをしていたあの時よりも、真っ直ぐな視線だ。その表情に不覚にも見惚れてじっと見つめてしまった。

「瞳」
「ヒロくん…」

 不安そうな瞳に安心させるように微笑みかける。

「大丈夫だから」

 ポンポンと頭を優しく叩くと、途端に泣きそうな顔に歪めた瞳は、うん、とだけ言った。
 愛の様子をチラリと窺う。呆れたように溜息を吐き、そして追い払うように手を振る姿に笑みを浮かべていると、生徒会長が急かすように俺を見た。

「…行くぞ、大樹」
「あ、はい……」

 ……。え? 今ナチュラルに名前呼ばれた気がするんだけど、あれ? 気の所為?
 俺は首を傾げながら、生徒会長の後を追った。











 見慣れた風景。見慣れた建物。放課後に集まっていた数日振りに見るその場所に懐かしさを感じる。生徒会長は暗証番号を入力し、屋敷の中に入っていく。俺もドアにロックがかからないよう、慌ててドアを押さえて中に入った。

「俺様は、さっきまでお前を殴るつもりでいた」
「え…!」
「けど、やめた。……あの時は、悪かったな」

 思わぬ謝罪に瞠目する。あの時、とは…。あの日のアレのことだろうか。

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