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「ゆーじ」

 下僕に会わないまま数日が経った。どうでもいい下僕が一人いなくなった。それだけだ。だが、俺の体はいつの間にかあいつのことを求めいるらしかった。廊下を歩く度、辺りを見ては肩を落とし、もしたら来るかもしれないと放課後いつもの場所に向かってはイ苛々し。

「おい、ゆーじ!」
「あぁ!?」

 悶々と考え込んでいた俺の耳元で大声がした。誰だ俺にこんなことをする奴は! と思って睨み――、瞠目した。

「どうしたんだよ! おれ、ずっと呼んでんのに!」
「あ、あぁ…いや、ちょっと考え事をな」

 ズキズキと頭が痛み始める。最近、俺の傍にべったりなこいつ――京は、紛れもなく俺の好きな奴だ。性別はまあ…一人称から想像が付くと思うが、男だ。元気な声も、ボサボサの髪も分厚いメガネも、全てが好きだったのに、何故かそれらが俺を苛つかせる。

「考え事? 何考えてたんだ? 勿論おれに聞かせてくれるよな!?」
「京には関係ねえことだ」
「そんなことない! ほら、話せよ!」
「いや、だから……」

 ああ、苛々する。脳に直接響くような声は、こんなにも疎ましいものであっただろうか。溜息を吐きそうになるのを抑えながら早くどっかに行ってくれと言おうとした。しかし、それは急かす声に遮られる。

「早く!」
「うるせぇ!」

 ブチ、と何かが切れる音がする。それと同時に俺は思いきり机を叩いていた。教室が静まり返る。俺はチッと舌打ちをして立ち上がった。

「な、何…怒ってんだよゆーじ! 最低だぞ!」

 じゃあお前も人の話をちゃんと聞けよ。
 ぎゃんぎゃんと騒ぐ京を一瞥し、俺はドアを一度思い切り蹴ってから教室を後にした。















 こんなに苛々するのは全部あいつの所為だ。一発殴ってやらないと気が済まない。あいつのクラスに――乗り込もうとして、ハッとする。俺、あいつの名前……知らなくね? 別にあいつに興味なかったしな…。名前なんて…。
 いや、待て。一度聞いたはずだ。階段で会った時、あいつの近くにいた女が確か…ヒロキ、と呼んでいた気がする。そんで京の机と間違ったわけだし…一年だな。

「くそ、こうなったら一年の教室回ってみっか」

 俺は気持ち早足で階段を下りながら先ずは何と言って声をかけようか、と考えた。

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