訪れ



「いや、ほら、嫌がらせだし…」
「はあ? 嫌がらせ? 尚更許せん!」

 自分のことのように怒る愛に苦笑を漏らす。瞳はむうっと頬を膨らませて手を握ってきた。

「それ、誰なのヒロくん。私、文句行ってくる」

 とんでもないことを言い出した瞳にぎょっとする。あの生徒会長に喧嘩を売る気か? そんなことしたら…。想像して真っ青になる。愛が怪訝そうに見てきたが、俺はそれを気にする余裕はなかった。

「え、や、止めろって! 俺全然気にしてないから」
「気にしてるじゃん! 私許せないよ! ヒロくんの唇は私のものなのに!」

 静寂が訪れる夕日の差した教室。

「お前のでもねえよ…」

 心底呆れたという風に溜息を吐いて愛が呟く。俺は無言で頷いた。
 もう帰ろうということになり、何か物足りない放課後は終了したのだった。














「よーっす、大樹」
「おう、今日は早いな」

 教室で頬杖を付いてぼーっとしていると、高野が爽やかな笑顔を浮かべながらやってきた。

「朝練、今日休みなんだ」
「成程」
「そーいやさ、最近生徒会長、機嫌悪いらしいぜ」
「……は?」

 思わず反応して高野を見る。まさか、ここで生徒会長の話題が出ようとは。それに、機嫌悪いって……恐らく俺の所為だろうな…。あんな暴言吐いて姿を現してないんだからな。だからって謝る気にはなれないけど。

「何で?」
「んー、何か人を探してるらしい」

 …絶対俺だ…。顔が引き攣りそうになったところで、クラスメイトの木村が慌てた様子で近寄ってきた。俺と高野は二人揃って首を傾げる。木村は俺の近くまでやってくると、口に両手を添えて小声で告げた。

「高浜! 何か生徒会長がお前のこと呼んでんだけど!」 

 一瞬息が止まった。

「え、な、何で…」
「知らねえよ! つーか近くで見たけどすっげえ美形だなあの人!」

 輝いた顔で興奮する木村。凄い美形? そんなこと知ってる。俺がどれだけ生徒会長と会ったかお前は知らないだろ。――むっとしている自分に気づき、眉を顰めた。何で俺……。
 モヤモヤと考えている俺は、教室が静まり返っているのに気づかなかった。

「おい」

 威圧感のある低い声。びくりと肩が震える。恐る恐る見ると、生徒会長が立っているではないか。俺は声にならない悲鳴を上げた。


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