放課後








 次の日から、俺は生徒会長のところに行くのをやめた。逆らったら人生ないと思えみたいなこと言われてたような気がするけど、もうどうでもいい。俺は疲れた。

「大樹ー、この問題さー」
「どれ?」

 俺と愛と瞳。机を合わせて宿題に取り組んでいた放課後。愛が頬杖を突きながらシャーペンで問題集をトントンと指す。俺は少し身を乗り出して首を傾げる。

「これ。もー全然分からん。帰りたい」
「お前がやろうって言った癖に…」

 溜息を吐くと、直ぐに不貞腐れる愛。それを瞳が宥める。実はこういった会話はもう三度目だ。

「ここ、マイナスがプラスになってるぞ。だから計算が合わないんだよ」
「あっ…。あー…」

 ハッとした顔をし、途端に脱力して机に突っ伏すのを呆れ顔で見ていると、それにしても、と瞳が口を開いた。

「最近は放課後ヒロくんと一緒にいるよね」
「確かにそうね。結局今まで何の用事だったの?」

 二人に見つめられ、うっと口篭る。放課後はずっと生徒会長のところに行っていたけど、それを言うと面倒なことになる。それに、もう生徒会長のことを忘れたい。

「まあ、いろいろとな」
「なにそれ」

 納得がいかないと言うように睨んでくるが、俺は無視して新たな問題に取り掛かった。

「じゃあ質問を変えるけど、アンタ何があったのさ?」
「……え?」

 勉強は止めたらしい愛が問題集を閉じながら言う。俺は内心ギクリとしたが、何もなかったと言うようにそのまま問題に目を落としていた。しかし、冷静に問題を解くことができず、同じ数字を何度も書いていた。

「何言ってんだよ」

 はは、と笑う。愛も瞳も笑わなかった。視線を上げてみると、真剣な顔で俺を見ている。

「この前――週明けから元気ないじゃん。隠してるつもりかもしれないけど、私らを見縊るんじゃないよ」
「愛…」
「力になりたいからさ、話してくれないかな、ヒロくん」
「瞳…」

 二人の真剣な表情に後押しされ、ずっと押し込めていた感情を吐き出す。

「俺さ…キスされたんだ」
「えっ!? なんだとー!」
「だ、誰に…?」

 顔を近づけてくる二人の見開いた目に少し体を引きながら小さく、男から、と付け足す。二人の顔が固まった。

「お、男…? え、男?」

 男、男と壊れた機械のようにブツブツと呟く瞳が怖い。

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