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「…なんだ」
「え、えっと、さっきのってどういうこと…ですか?」

 意を決して言ったが、生徒会長は何か言い訳でも考えるように視線を彷徨わせた。良く分からなかったが、じっと待っていると、店員が服を抱えて戻ってきた。
 生徒会長は助かったと言わんばかりに俺から視線を外して服に遣る。

「こちら、試着なさいますか?」
「ああ、そうだな」
「ではこちらに」

 店員に促されて消化不良の気持ちを抱えながらその場を離れた。














 試着室も広くて綺麗とは何事だ。流石ブランド店。こんなところまで気を配っているとは。
 渡された服を呆然と受け取ったが、中々その場から動かないでいると、笑顔で圧力を掛けられてしまった。顔を引き攣りそうになりながら中に入ると、店員は笑顔を崩さないままシャッと音を立ててカーテンを閉め、足音が遠ざかる。

「やっぱ着ないといけない…よなあ」

 生徒会長の意図が分からなくてどうにもすっきりしない。そういえばどれくらいするんだろうと値札を見た瞬間、固まった。

「さっ……」

 三十万!? え、この服が!? 上下セットとはいえ高すぎる!
 どどどどどうしよう、俺にはこんな服はまだ早い。ていうか汚しでもしたら大変なことになりそう。外暑かったからちょっと汗掻いてるし…。でも生徒会長待たせてるんだよ、な…。
 ……とりあえず着てみて、それから考えよう…。別にこの服着てみたいとかそんなんじゃないから、うん。
 目の前の誘惑に負けた俺は服を脱ぎ、丁重に服を扱いながら着替えた。そして鏡と向き合って自分を確認した。…やっぱりこれ、凄い俺好みだ。
 一度でもこんなに高い服を着ることができたことは感謝しなきゃなと思っていると、外から呼びかけられた。

「おい、まだか」
「えっ! あ、もう着替えました!」
「そうか、開けるぞ」

 えっ。
 俺の返事を待たずにカーテンは開かれた。生徒会長はジロジロと俺を見つめ、ふ、と笑った。……え、わらっ…? 笑った!?
 あくどい顔は見たことはあるが、こんな風に笑ったのを初めて見た。俺はあまりの格好良さに暫し見惚れる。

「中々だな。俺様には負けるが」
「どうなさいますか?」
「こんまま着ていくから札切ってくれ」
「承知いたしました」
 
 ちょ、ちょっと、待ってくれ! どういうことだよこれ!
 俺が断ろうと口を開いた瞬間、バチンと切る音が直ぐ後ろで聞こえた。……切っちゃったよ…。

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