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 車から降りると、店員――いや、店長らしき男性が出迎えてきた。品の溢れる初老の男性で、歳をあまり感じさせない。
 俺は店を見てごくりと喉を鳴らした。超ブランド店じゃんここ。場違いすぎるだろ俺…!

「いらっしゃいませ、桜田様」
「おう」

 恭しく頭を下げる男性に対しこの態度である。金持ちと言えど敬語が使えないと絶対この先社会に出て苦労するぞ。……まあ俺には関係ないことだけど。

「おい、何してんだよ。さっさと来いノロマ」
「っ、はい」

 うう、反論できないのが悲しいぜ。慌てて付いて行くと、俺を一瞥して歩を進める生徒会長。そういえば生徒会長って桜田っていうんだな。名前言われなかったし俺も生徒会長って呼んでるから必要ないし、今初めて知った。知ってもこの先呼ぶことはないからどうでもいいか。
 つーか、運転手にいつものとこってさっき言ってたよな。いつもこんなとこ来てんのかよ。金持ち凄いな。俺も欲しいけど金ないし、生徒会長が買ってくれることは万が一どころか億が一にもないし、俺はただの荷物持ちだし――って…あれ? 今思ったけど車なら俺必要なくね?
 浮かんだ疑問に首を傾げたが、それを訊く勇気がない。黙って時が過ぎるのを待とう。ところが、煌びやかな店内に入ると生徒会長が立ち止まって突然振り向き、俺を上から下までジロジロと眺め始めた。美形に見つめられて平然とできる俺ではないので、居心地の悪さに少し身を捩る。
 生徒会長のやることは予想外なことばかりだからどうしていいか分からない。不安に思って生徒会長を見上げると、何故か高速で顔を逸らされた。今残像が見えたぞ……! ていうか何故逸らしたし。
 俺から視線を外した後は店内をぐるりと見回し、じっと何かを見つめると次に俺を見た。どれくらい荷物持たせようかなげへへとか考えてないだろうな…。最も、生徒会長は間違ってもげへへなんて笑わないだろうけど。

「おい、お前」
「はい、如何なさいました?」

 綺麗な笑顔を浮かべて近づいてきた店員。どうして生徒会長はそんなに偉そうなんだよ。

「あそこに展示してるやつ。こいつの背丈に合ったサイズのあるか」

 ――え?
 生徒会長の口から発せられた言葉に驚き目を見開く。ジロジロと生徒会長を見るが、こちらを向こうとしない。一体、どういうこと?

「ええ、ございますよ。直ちにお持ちしますので、少々お待ちください」
「おう」

 店員が俺を一度見てから確認するように頷いて笑みを浮かべた。そして生徒会長が指差した展示されている服に向かう。
 その服は俺好みのデザインだった。偶然で当てたのだろうか。俺は黙ったままの生徒会長に声を掛ける。

「あの、生徒会長さん…」

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