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「兄ちゃん、これは? あー、いや、やっぱこれの方が良いかも。もう暑いし、七部袖かな」
「……おい」
「お、このチェック可愛いじゃん。流石、センス良いね」
「…おい、」
「上がこれなら下は――」
「おい、郁斗!」
「え?」

 俺はむっと口を閉じて睨む。
 郁斗はクローゼットから視線を外し、漸くこっちを見た。きょとんとしている辺り、何で俺がこんな顔をしているのか検討もついていないのだろう。

「何? 早くしないと間に合わないよ」
「何? じゃなくてな…何でお前がここにいるんだ。デートの準備はどうした」
「大丈夫、まだ全然余裕あるし」

 にこにこと人好きのする笑みを浮かべている郁斗に思わず溜息を吐いた。困ったな…こうやって傍にいられたら、こっそり家を出ることが出来ない。部屋で大人しく準備してくれればいいものを…。

「ここから学校ってどれくらいかかるの?」
「あー…まあ、十分くらいだけど…。で、それを聞いてどうするんだ?」
「え? あ、あははー。いや、別に?」

 おい、嘘下手すぎるだろ。










 何やら含み笑いをした郁斗に見送られた俺。あれ、来ないのか、と拍子抜けしてそのまま早足で歩く。すると、自分の少し後ろから聞こえる足音。後ろを振り向くと素早く何かが角に隠れた。
 ……まさかな。嫌な予感を感じながらカーブミラーを見上げると、帽子を深く被った男の姿――十中八九どころか完全に郁斗だ。
 結局こうなるのかと思いながら、溜息を吐く。
 時々後ろを気にしながら歩き続けると、校門の前に既に人影があった。
 ……う、うわああああああ! やばくないか、これ!? 何であの人もう来てんだよ!
 自分の顔が青褪めていくのを感じながら生徒会長の元へ走る。俺に気付いた生徒会長の顔に元々あった皺がより一層深く刻まれる。

「遅ぇ」
「す、すみません…!」

 慌てて頭を下げる。これを郁斗に見られてるのかと思うと、悔しくて涙が出そうだった。っていうか、もう出てる気がする。少し視界がぼやけている。
 ちらりと見上げると、何故だか硬直している生徒会長。
 え、な、なんだ。一体どうしたんだ。

「あ、の…」
「っ、……ッチ」

 恐る恐る声を掛けると、我に返ったようで、大きく舌打ちをした。本当、この人の一挙一動が怖い上に不明なんですけど…。

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