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 母が俺と郁斗の朝飯を持ってきてテーブルに置いたので、郁斗の左横の椅子に座る。
 まだ寝間着のままの俺に首を傾げていたが、何かを思いついたように声を漏らす。

「もしかして、愛ちゃんたちと遊びに行くの?」
「いや、今日は違う」
「兄ちゃん、金持ちと会うらしいよ」
「あら、どこのお嬢さん?」
「残念だけど、男」
「え、男なの?」

 郁斗が目を瞬いて俺を見た。俺は頷く。
 っていうか、今更だな。
 ふりかけが入った箱から鮭を出して開封すると、温かいご飯にかける。均等に混ざるようにご飯を箸で転がした。
 母はにこにこと笑いながら俺の目の前の席に座る。ずいと顔を近づけて興味津々な様子で訊ねてきた。
   
「どんな人なの? 今度家に誘ってみなさいよ。お金持ちの人にはつまらない家かもしれないけど」

 母には悪いが、絶対誘いたくないし誘っても来ないと思う。来たら来たで文句良いそうだ。それに、怒らせたら家を破壊しかねない。
 というかそれ以前に、母に暴言を吐くかもしれないし、嫌だ。流石に大人に向かって暴言は吐かないだろうけど……。色々な意味でイメージを崩したあの生徒会長なら何をしでかすか分からないから危険だ。
 それにしても、どんな人って言われてもな。人を下僕扱いする最低で自己中心的な美形としか言いようがない。
 勿論そんなことを言えるわけがなく。口の中に入れたご飯を咀嚼しながら答えを探す。飲み込んで、口を開いた。

「どんな人ねぇ…。えーっと、生徒会長」
「ええっ、生徒会長!?」

 迷った末に出した答えがこれだった。
 隣から驚きの声が上がる。ちらりと見れば、驚きの中に少なからず嫌悪感が含まれているのに気付いた。恐らく心の中で、生徒会長が下級生をパシリにするのかよ、という不快感があるに違いない。

「へえ、凄い人なのね。ってことは、三年生?」

 頷く。
 母の言葉にはそんな凄い人と親しくなったのね、というニュアンスがあった。嘘を吐いてはないが、罪悪感が胸を締め付ける。
 急いで残りのご飯を口に掻き込むと、俺は立ち上がった。

「じゃあ、俺準備してくる」

 答えを待たずにリビングから出る。振り向いた際に見えた母が不思議な顔をしていて、余計に心苦しくなった。
 ああ、今日行きたくねえな。
 改めてそう思い、深い溜息を吐いた。

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