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「じゃあ、服に凄く厳しい彼女とか?」
「いや…実はその人金持ちでさ。色々あって今その人のパシリ的存在なわけ」

 パシリとか兄として情けないこと郁斗に言いたくないが…、下僕よりはいいかなと妥協した。じゃないと、説明ができない。

「なにそれ。そんな最悪な奴無視すれば良いじゃん。もしかして兄ちゃん脅されてんの? 俺が文句言ってやる!」
「わー、ちょっと待て! そんなことしたら駄目だって!」

 間違いなく生徒会長から殴られてしまう。俺も郁斗も。俺だけならまだいいが、郁斗を危ない目に遭わせたくない。っていうか、生徒会長に会わせたくない。純粋な郁斗が穢れてしまうかもしれない。
 俺は怒りを露にしている郁斗の肩を慌てて押さえた。

「気持ちは嬉しいけど、落ち着けって」
「……この前の顔の傷だって、…そいつの仕業?」

 俺ははっとして口を噤む。もう治った筈の頬がずきずきと痛み出した。
 そのまま俯いてしまった郁斗の頭を撫でる。

「俺は大丈夫だから。ほら、お前、今日亜矢子ちゃんとデートなんだろ。そんな顔してると嫌われるぞ」
「……うん」

 納得してないような顔で俺を見た。ポンポンと触り心地の良い髪の毛を軽く叩くと、郁斗は苦笑した。

「分かった。何かあったら直ぐに言ってよ?」
「ああ」

 絶対だからねと念を押してきたのに俺も苦笑いを返して頷く。

「取り敢えず下に降りようか」
「そうだな。早く準備して服決めないと」
「そういえば何時に待ち合わせ? どこに行くの?」
「十時。どこに行くかは聞いてないけど、学校集合だとさ」
「兄ちゃんの高校? ふーん、…十時ね」
「おい、何か変なこと考えてないだろうな?」
「えー? 別に考えてないよ。うん、考えてない」

 あ、怪しい…。
 ジト目で郁斗を睨むと、先程の怒りの表情はどこへ消え去ったのか、えへへと笑いながら階段を先に降りて行ってしまった。俺も急いで後を追う。……郁斗もことだから約束をほったらかしにしてなんて真似はしないだろうが、あの反応。恐らく生徒会長を見るために俺の後を付いて来るつもりだろう。
 ……どうしよう。俺の情けない姿も見られてしまう。郁斗にそんな姿見られたくない。
 悶々と考えながらリビングのドアを開ける。

「あら、おはよう、大樹」
「おはよ」
「今日は早いのね」
「まあ、ちょっと」

 いつもは昼まで寝てるから、余程珍しいのだろう。母が目を丸くして俺を見た。

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