最悪な一日





 ジリリリリと目覚まし時計のけたたましい音が室内に鳴り響いて意識が浮上する。ついに日曜日が来てしまった。
 このままベッドでだらだらと過ごしたい衝動を抑えながら起き上がり、嫌々ベッドから降りる。クローゼットから服を取ろうとしてはたとあることに気づく。
 ……どんな服を着て行ったらいいんだ…? ファッションセンスは悪くないと自負しているが、相手は金持ちだ。価値観が違うだろう。
 取り敢えず服は後にしようとクローゼットを閉めて部屋を出る。

「あ」

 ドアを開けると、丁度弟が通りかかったところらしく、小さく声を漏らすとにへらと締りのない顔で笑った。

「おはよー、兄ちゃん。今日は早いな」
「まあ、ちょっと用事があってな。お前こそ早いな」
「俺今日亜矢子ちゃんとデートなのよ」

 ふふんと胸を張る弟の郁斗。亜矢子ちゃん…亜矢子ちゃん…。何度か呟いて脳裏に浮かび上がった顔に、ああと頷いた。
 以前自慢げに郁斗と一緒に写った写メを見せてもらったのを思い出した。

「合コンでいい感じだったっていうあの子か」

 しかも中々可愛かった。郁斗には勿体無いレベル。いや、郁斗は性格のいい奴だから自慢の弟ではあるけど。……少しブラコンなのは認めよう。

「そうそう! へへ、いいでしょ」
「ああ」

 ……本当にな。お前は女とデートで、俺は男とデートだぜ……。うわ、デートとか気持ち悪い。
 俺の顔が暗くなったのを、目の前の郁斗が不思議そうに首を傾げる。

「どしたの、冴えない顔が更に冴えないよ」
「オイ、失礼だな」

 んなの自分でも分かってるわ! と頭を小突く。いたーい、と言いながら笑みを浮かべた。

「兄ちゃんは明るい顔の方が似合うって。辛いことあるなら俺に相談してよ」
「郁斗…!」

 流石俺の自慢の弟…!
 涙目になりながら郁斗を見つめると、照れたように頭を掻いている。俺が礼を伝えると、うんと一つ頷いてそういえばと声を上げた。

「まだ着替えてないね。珍しい」
「ん、あー…着ていく服迷っててな。後でゆっくり考えようかなと思って」
「いつものでいいじゃん。センスいいし全然問題ないよ」
「相手が問題なんだよ…」
「相手? あ! 新しい友達?」
「それならどんなに良かったことか」
 俺はそう言って遠くを見つめた。
 郁斗の頭上には大量のクエスチョンマークが浮かんでいる。

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