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 一年の教室は四階に存在する。俺は汗を流しながら必死に足を動かして一段一段階段を上る。
 ああ、マジで暑い…なんて考えて自分の世界に入っていると、二人の慌てて俺を呼ぶ声が何処か遠くで聞こえる。しかしそれは認識しただけであって、聞き返すことなくそのまま歩いて――。
 ボスッ。

「へ…」
「……あ?」

 あれ、何だか最近よく耳にする声が頭上から聞こえるんですけど…。暑さでついに幻聴を聞いてしまったか? だってここにいる筈ないもんな、うん。

「ちょ、大樹!」
「んだよ愛…」

 何だか頭がぼんやりする。愛の良く通る声は頭にガンガンと響いて、俺は思わず眉を顰める。
 ていうか柔らかい物にぶつかったけど、これはなんだろう…。顔を顰めたまま顔を上げる。そしてカッと目を見開いた。

「テメェ…」

 せっ……生徒会長だァ――! 
 俺は知らず内に生徒会長の背中にぶつかっていたようだ。暑さで火照った顔が真っ青になる。驚いたように俺を見た生徒会長はギッとした目つきに変化する。超睨んでる! 人を殺せそうな視線で俺を睨んでる!

「わっ、わぁ! すみません!」

 慌てて体を後ろに仰け反らせると、ぐらりと体が傾いた。や、やべぇ、ここ階段だった。更に真っ青になった俺を、何と生徒会長が手を伸ばしてきて…。まさか、このまま勢い良く落とされるんじゃあ、と恐ろしいことを考えたが予想外のことが起きた。右腕と胴の間に手を突っ込んで腰に回した手が俺を支える。そのまま引き寄せられた。

「えっ」

 愛が信じられないという風に呟く。
 俺も信じられない。生徒会長が、た、助けてくれるなんて。直ぐ近くにある顔を見上げてみると、生徒会長自身自分の行動に驚いているようだ。ハッと我に返った生徒会長が俺から凄まじいスピードで手を放した。え、そ、そんなに俺に触れているのが嫌だったのか…。ふらついた体を何とか支えて呆然と見上げる。
 え?
 俺は目を丸くした。口元を手で押さえている。大きな男らしい手の隙間から覗く頬は少し赤みを帯びていた。
 あ、暑いのかな…。まあ、生徒会長だって人間だし、暑さを感じるもんな。俺は一人納得して頷くと振り返る。愛と高野は固まったまま動かない。
 俺は微動だにしない三人に挟まれている。……え、どうしたらいいんだ、これ?
 顔が引き攣った。

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