津村仁2

(side:大樹)

『流石大樹。頑張ったな、お疲れ』

 優治先輩から送られてきたメールを見て胸が温かくなる。名前が載っていたと連絡した直後のものだ。

「ニヤニヤしちゃってまあ」
「っ、愛」
「分かりやすすぎ。もうちょっと表情筋鍛えたら?」
「う…」

 俺は頬を押さえる。そんなに表情に出てたか、俺。ちらりと愛を窺うと、俺の考えていることが分かったのかうんと一回頷いた。
 愛の隣で少しだけ気まずそうな瞳も小さく頷く。ちょっと恥ずかしくなって、うう、と呻いた。

「ま、良かったじゃないの。改めておめでと」
「おめでとう、ヒロくん」
「ありがとう」

 傍から見たら大袈裟なんだろうな、と思いながら顔を緩める。これは俺の勝負だったのだ。そして、生徒会役員になるための一歩でもある。

「――ん?」

 手の中の携帯が震える。またメールか? と開いて見てみると、優治先輩からだった。今度は何だろう。何か伝え忘れか、と首を傾げる。そして一言目に書かれている名前に目を見開いた。

『津村仁が俺たちの関係を探っているらしい』

「津村仁…」
「津村? って、さっきの?」
「え、誰。私知らない」

 愛と瞳が訝しげな顔でこっちを見てくるのが分かった。

『津村に気を付けろ』

 俺は思わず、あっと声を上げる。二人が反応したが、俺は慌てて文を打っていた。慌てすぎて打ち間違える。くそ、電話の方が手っ取り早い――けど、もうすぐ休み時間が終わってしまう。…落ち着いて文を打とう。はあ、と息を吐く。

『さっき、津村に会いました』

 文を完全に打って変換し終わってから項垂れる。優治先輩に、あいつに会ったら連絡しろ、と言われていたのをすっかり忘れていた。

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