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津村とそんなに関わりがあるわけではない。親しいわけでもない。だから津村のこれが演技なのか元の性格なのか分からない。俺と優治先輩のことを知らないとして、もし知った時はどういう態度で接してくるんだろう。あの冷たい目で見られるのだろうか。
「大樹」
愛が小声で名を呼び、肘で小突いてくる。俺ははっとした。また考え込んでしまった。津村をちらりと窺うと、一瞬だけ探るような目と視線が合う。
「大丈夫かあ? まじで疲れてるみたいだな」
「あ、ああ…」
「ま、テストお疲れ。ってことで、俺はこれをたかちゃんに渡しに来たんだよ」
「え?」
これ、っていうのは一体。何だか少しだけ嫌な予感がして、一歩後退る。愛が横目で俺を見るのが分かった。
「はい!」
にっと笑うと除く八重歯。俺に差し出されたのは――例のナポリタン風ジュース。やっぱりそれかよ! ていうかまだこれ置いてあるのかよ!
津村は顔を引き攣らせる俺に無理矢理ジュースを持たせ、じゃあな! と元気よく言うと走り去って行った。
「それ買う人いたんだ…」
愛がドン引きした様子で呟いた。やっぱそうだよな…。俺は遠い目で頷いた。
「ていうか、あの人誰? 知り合いみたいだけど」
「津村って言って…一応一つ上なんだけど、留年したらしくて」
「ああ、あの人が例の」
愛はなるほどと言った様子で頷く。どうやら知っているみたいだ。…やっぱり俺が知らないだけで、有名なのか。
「あ。愛、さっきはありがとうな」
「え? 何が?」
「俺がぼおっとしてた時に助けてくれて」
「ああ、あれ? 大樹が困ってそうって言うか…あの津村って人が苦手そうだったし」
良く見てるな。俺は感心しながら、あることを思いつく。にやりと笑って手に持っているものを愛に差し出した。
「お礼にこれ、やるわ」
「殴るぞ」
「じょ、冗談だって、ははは」
目が本気だったぞ。怖いな、お前…。
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