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「違います」

 愛がきっぱりと答える。あ、違うんだ、と津村が呟いた。その様子は少し残念そうに見えた。

「えっと…何でここに?」

 引き攣りそうになる顔を抑えて訊ねると、津村は面白そうに笑った。

「何でって、俺は学校に来ちゃだめなのかあ!?」
「いや、そういうわけでは」

 慌てて否定すると、津村は特に気にした様子もなく、笑ったまま答える。

「ぶっちゃけた話さ、このままサボってたら出席やばいって言われたんだよー!」

 けらけらと声を上げる津村からは、悪意などは感じない。ただ普通に友達に対して話しているような…そんな感じだ。優治先輩を嫌っている、というのはあの冷たい目から察するに本当だ。俺に近づいてこうして話しかけて来るのが何か企んでのことである場合、俺はどうしたらいいんだろうか。

「たかちゃん?」

 声をかけられ、はっとする。津村が俺の顔を覗き込んでいた。やばい、不審に思われたか?

「大樹は疲れてるんだよ」

 愛が何か察したのか、津村に言った。津村が顔を離し、本当かと目で訊ねてくる。俺は心の中で愛に感謝しながら頷いた。

「テスト勉強の疲れが一気に出て」
「ふーん? そうなんだ」

 津村はちらりと成績上位者の紙に視線を遣る。そして数秒後、ぎょっと目を見開いた。

「ええ!? たかちゃん名前載ってんじゃん!」

 あんぐりとした顔のままこっちを向く。俺は少し照れながら、まあ、と首の後ろを擦る。

「頭いいんだな!」

 今度はきらきらとした目になり、やっぱりころころと表情が変わる人だ、と思う。でも、もしかするとこれは嘘かもしれない、とぞっとする。

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