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 少し経つと、教室の中には俺たちだけとなった。最後まで残っていた奴らは俺たちに気を遣ってくれたのかもしれない。俺たちは一言もしゃべらず、ただ座っていたから。
 そろそろ始めよう、と思い、口を開く。

「――ヒロくん」

 しかし俺が話す前に、瞳が俺の名を呼ぶ。顔を上げると、予想外にも強い真っ直ぐした目をしていた。

「ヒロくんに言われたあの日から、私ずっと考えてた。離れてみて、あの人とヒロくんが一緒にいるところを見て、漸く気付いたの。ヒロくんが本当に笑えるのはあの人と一緒にいる時だって。私じゃ、ヒロくんを困らすだけだって」

 ――驚いた。瞳が大人びて見えたのだ。思わず愛を見ると、くすりと笑って頷かれた。

「ヒロくん」

 俺は視線を瞳に戻す。瞳はふわりと笑った。

「私、まだヒロくんのこと好きだよ。――でも。ヒロくんの楽しそうな顔が好きだから。もう、困らせたくない。…ごめんね、今まで我儘言って」
「……謝るなよ」
「うん、ありがと…」

 そう言う瞳の声は震えていた。今までの瞳なら、ここで泣いていただろう。
……でも、ここで泣いたら俺が困るから、と我慢しているんだ。俺は静かに、うん、とだけ相槌を打つ。

「…私帰る! ヒロくん、あの人――会長と仲良くね」

 瞳は明るく言い放つと、すくっと立ち上がり、手を振って教室から足早に出て行った。 

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