瞳の話

(side:大樹)

「終わったー!」

 クラスメイトが喜びの声を上げる。他にも別な意味で終わったと叫んでいるクラスメイトの中で、俺は深い溜息を吐いた。自信はあるにはある。けどないと言えばない。

「どうだった?」

 高野が訊ねて来る。俺は机のものを片しながら苦笑した。

「まあまあ。高野は?」
「…はっきり言って微妙」

 高野は肩を竦める。まあ、最初のテストだし、酷い結果ではないだろうけど。

「よし、じゃあ帰るかー」

 高野が立ち上がり、ぐっと背伸びをする。ぽき、という音が聞こえて笑っていると、高野も照れ臭そうに笑った。
 周りを見ると、もう人が少なかった。皆テストから解放されたのが嬉しかったんだろうな。……俺も、優治先輩に連絡して帰ろう。

「大樹」

 名前を呼ばれ、声の方に顔を向ける。愛と――俯いた瞳が並んで立っていた。愛はもう一度静かに俺の名を呼ぶと、瞳に目を向けた。

「瞳があんたに話があるってさ」
「……瞳が?」

 瞳は顔を上げぬまま、小さく頷く。髪で顔が良く見えないが、泣きそうじゃないか? 大丈夫なのかと言う意味を込めて愛を見ると、愛は困ったように眉を下げて笑った。

「……じゃあ、ここに残ってる人がいなくなったら話そうか」

 瞳はまたこくりと頷く。愛はどうするんだろう。ちらりと見ると、俺の考えていることが分かったのか、ここにいるよ、と言った。

「あ、高野は勿論帰ってね」
「はいはい、分かってるって」

 愛はしっしと手で高野を追い払うと、高野は鞄を肩にかけ、ひらひらと手を振った。

「じゃあな」
「お疲れ」

 手を振り返すと、高野が教室から出て行く。愛がよいしょ、と言いながら高野の席に座った。

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