VS肉食獣



「あ、生徒会長」

 愛が隣で珍しそうに声を上げた。俺の心の中が覗かれたような気持ちになって、小さく肩が揺れる。そして体が緊張したように強張った。幸いにも、愛は気付いた様子がない。…しかし、いつの間にか俺の腕に絡み付いていた瞳には直に伝わったらしく、不思議そうに首を傾げている。

「あの人、今日は早く来たんだ」
「え? いつも遅いのか?」
「聞いた話じゃね。確かにカッコいいけど、興味ないな」
「私も。何かあの人怖い」

 分かる。分かるぞ瞳。その気持ち充分この前味わったし、これからも味わうことになるんだぜ俺は…。
 心の中で頷きながら生徒会長を見ていると、そのまま校舎に入って行って安心する。

「ほら、瞳。いい加減離れろって」
「えぇー。ヒロくんのいけず」

 ぶっちゃけ俺も未練はあるし、瞳がこうしてくっつてくると色々ヤバい。もう一度付き合うかとも言いにくいし、瞳も何も言ってこないから何だか微妙な関係のままだ。
 ぶすっとした顔で俺の腕を開放する。俺は小さく溜息を吐いて校舎に足を踏み入れた。






 来ました悪魔の放課後。

「はい、じゃあ日直、号令」
「起立」

 その音で皆が立ち上がると、ガタガタと椅子の擦れる音が響いた。礼と短く告げた日直の声とともに体をちょっとだけ曲げると一瞬にして教室の空気が変わる。あー疲れた、部活やバイトが面倒などの声が耳に入る。面倒って、それなら俺が変わってやりたいくらいだよ。俺は今から獰猛な肉食獣を前にびくびくしながら話をしないといけないんだぞ。この気持ち分かるかよお前たちに。心の中で八つ当たりをしてみる。だけどそんなことをしても意味ないので俺は溜息を吐いた。
 楽しそうに友達と話しているクラスメイトの中、一人だけげんなりとした顔でSHLを終えると、高野が首を傾げた。

「どうした? テンション低いな」
「まーちょっとな…」
「何か困ったことあるなら相談に乗るからいつでも言えよ? じゃあな」
「ああ、有り難う。また明日な」

 笑みを浮かべて爽やかに去って行く高野を見送る。
 高野がいい奴過ぎて涙が出そうだ…。高野みたいな奴が生徒会長ならなー。なんて何度目かの現実逃避をしながらクラスの奴に挨拶すると、早足で昨日の場所へと向かった。愛と瞳はもう帰ったのか、教室にはいなかった。

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