京と俺

(side:仁)

 俺は舌打ちしそうになるのを抑えながら廊下を歩く。嫌な奴を見てしまった。あのクソ野郎。遂に出てしまった舌打ちに、近くにいた奴がびくりとこっちを見た。おっと、いけない。俺はにっと笑う。俺が笑いかけた女は、ぽっと頬を染めて俺を見た。自分の顔立ちが整っているのは自覚している。これは俺の武器だ。
 俺は手に持っていたナポリタン風ジュースをごくりと飲む。嫌いな味ではないが、特に好きなわけではない。こういうインパクトなものを持っていることで話のネタにもなるし、キャラづくりにもなる。

「あの…」
「あ、ごめん! 俺ちょっと急いでるから! またね!」

 女に明るく笑いかけ、ばたばたと走り出す。こういう風にちょっとバカっぽくするのがポイントだ。女はぼおっと顔を赤くしたまま俺を見送った。











 俺は京を呼び出した場所へ向かう。珍しく時間通りに来ていた。相変わらず不潔そうな見た目。自然と顔がきつくなる。

「おい、京」
「……っひ、としさん」
「お前ちょっと問題起こしすぎじゃね? マジ恥なんだけど」
「だ、だって! あいつが優治に…!」

 優治。あのクソ野郎か。――で、あいつって誰よ。

「あいつって?」
「あいつが優治を誑し込んだんだ!」

 俺は京の足を蹴った。痛い! と大袈裟に言う従兄弟に苛立ちが募る。

「あいつ、って誰」
「あ、あいつは…っ。なんか普通の奴で、ゆ、優治に大樹って呼ばれてた!」
「普通の奴で…ヒロキ…」

 あれ、それってもしかして。高浜大樹じゃない? ……へえ、なるほど。
 俺はジュースをちらりと見る。にやりと笑って一気に飲み干した。

「京、その大樹のこと、もっと聞かせてよ」

 にっとキャラを作って笑えば、馬鹿な京は嬉しそうに口を開いた。

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