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「大樹?」

 津村の姿が見えなくなっても廊下をぼんやり眺めていると、近くまで来ていたらしい優治先輩に、背後から声をかけられた。俺は振り向いた。

「優治先輩」
「どうした?」

 優治先輩は俺の後ろ――先程まで俺が見ていた場所に視線を遣る。少し眉を顰め、訝しげな表情を浮かべた。

「ええと…津村って人知ってますか?」
「津村……津村仁か」

 優治先輩は苦い顔で呟いた。有名なのだろうか。そういえば高野も知っていたしな。

「…もしかして、今そいつが?」
「はい、まあ」
「何もされなかったか?」

 俺の両肩を掴み、少し早口で問うてくる。…あいつに、何かあるのだろうか? 俺は疑問に思いながら小さく頷く。優治先輩はほっとした顔をしたが、すぐに廊下の奥を睨む。

「知り合いなんですか?」
「知り合いっつーか、あいつは、……京の従兄弟でな」
「ええ!? 京の!?」

 目を見開いて驚けば、優治先輩は溜息を吐きながら頷いた。なるほど、あの強引さ。確かに京に通じるものがある。でも京よりは常識がありそうではあるけど。

「大樹、お前津村に俺様とお前が付き合ってることは悟られるなよ。――あいつは俺様のこと嫌ってるからな」

 去り際の冷たい声と顔を思い出す。嫌っているというのは、京関係なのだろうか。というか、付き合っていることはともかく、親しいというのはもう知れ渡っているような気がするんだけど、大丈夫なんだろうか…。と、そこまで考えてはっとする。津村が俺に接触してきたのは、もしかしてそれが目的で…?

「あと、できるだけ会わないように…もし会ったら、連絡しろ。いいか?」
「はい」

 よし、と言うと、俺の肩から手を外し、優しく笑う。俺は津村の顔を頭から消し、笑い返した。

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