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昼休みになると、弁当を持って立ち上がる。一瞬だけ瞳がこっちを見たが、立ち上がることはなかった。教室を出ると、廊下の奥に人だかりができていた。きゃあきゃあと黄色い声を上げる女子の中心にいるのは、仏頂面の男。俺は苦笑しながらそれを見る。今近づくことはできない。それにしても女子って強いな。あんなあからさまに不機嫌で無視されているのに構わず話しかけている。
電話をかけてみようかと、携帯を開。
「あ」
近くで声がしたと思った時、ぽんと俺の肩に手が乗る。驚いて振り向くと、カチューシャと赤いフレームのおしゃれ眼鏡が印象的の男がにいっと八重歯を見せた笑った。どこかで見た顔だ。俺は男から視線を外さずに携帯を閉じる。
「たかちゃん、久しぶりじゃん!」
「え……」
たかちゃん、そしてこの馴れ馴れしい態度。俺はナポリタン風ジュースを買った――というか、違うものを買うつもりだったのに買ってしまった日のことを思い出す。確か、同じ学年の津村。会ったのは一度だけで、しかも十分くらいしか一緒にいなかったがまるで友達のように話しかけられて戸惑う。ていうか、俺の名前も顔も覚えていたのか、こいつ。
「あ、それ…」
俺は津村の手にしっかりと握られた例のジュースを見て口を引き攣らせる。…まだ売ってたのか、あれ。
「これマジで旨いよな!」
津村は満面の笑みを浮かべる。そこに嘘は見えない。それを本気で旨いと思える津村が凄い。俺は肯定も否定もせずに、ははは、と笑う。
「ところでたかちゃん、ここで何してんの?」
「え? あー、人を待ってて…」
ちらりと優治先輩を見ると、漸く解放されたのか、こっちへ向かってくる優治先輩。
「……会長じゃん」
隣から発せられた冷たく静かな声に目を見開き、顔を向ける。津村は無表情で優治先輩を見ると、ぱっと俺を見た。何事もなかったかのように、明るく笑う。
「じゃ、俺行くわ! またね!」
俺の返事を待たず、ぶんぶんと手を振ると、優治先輩とは反対方向へ走り去る。俺はその背中を呆然と見送った。
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