テスト開始

 いよいよ、テスト当日。やれるだけのことはやった。だけど、やはり緊張する。良い順位をとらなければならないというプレッシャーと不安で押しつぶされそうだ。昨日は早めにベッドに入ったのに、中々寝付けずなかった。そのせいであまり寝た気がしない。
 俺は息を吐いて、瞳に視線を向ける。教科書に目を落とし、俺の視線には気づいていないようだ。俺はもう一度息を吐いた。今度は溜息に近いものだ。あの日から瞳に避けられている。視線が合えば目を逸らされ、休み時間になっても俺のもとへやってこない。クラスメイトから喧嘩でもしたのかと訊かれ、俺は曖昧に笑った。俺にべったりだった瞳がこうもあからさまな態度をとられたのは初めてで、ちょっと…というか、結構ショックだ。それを愛に話すと、ぎろりと睨まれて放っておけと言われた。ここで俺が甘やかしたらだめなんだと。確かにその通りかもしれないと思って、今この状態だ。
 そういえば愛は、何も言ってこないし、態度も今まで通りだ。…優治先輩に宜しく、とは空耳だったのだろうか? それとも聞き間違い? ――いや、そんなことはないはずだ。と俺は眉を顰める。しかし確かめるわけにもいかず、結局放置のいう形をとっている。
 俺は教科書を開く。一科目目は現代文だ。一番自信がある、というか特異な教科なので問題はないと思うが、出来る限り得意教科で良い点数を稼ぎたい。ノートも開き、ポイントを見ながら文章を読み解いていく。
 テスト開始まであと十分。頑張るぞ、と俺はシャーペンを強く握った。

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