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 苦手と言うより好きではない、とは事実のようで、先程ずっと問題集に書き込んでいた答えはほとんど正解しているようだ。ちらりと見た時、赤い丸が並んでいた。俺も頑張らなければ。――と意気込んだはいいが、早速分からない。じっと問題を睨んでううんと悩む。

「大樹、そこは前の問題…問八の応用問題だ」

 優治先輩が人差し指で問題集の問八をとんと叩いた。俺は問八の問題文と答えを見て、あ、と声を出す。

「ここの公式を使って…」
「そうだ」

 問題文からは読み取れなかったが、確かに問八の公式を使えば、答えが導かれそうだ。公式を横に書いて、改めて問題を考えていく。どの公式を使えばいいか分かればあとは簡単で、先程書いた公式をちらちら見ながら数字を当てはめ、答えを出す。計算間違いや公式が間違っていないかを確認し、顔を上げる。頬杖を付いて俺を見守っていた優治先輩が、に、と笑った。

「正解」

 続けて頭をぽんと叩かれ、俺も顔を緩ませる。

「ありがとうございます」
「ああ」

 その後もこのような感じで勉強が進み、郁人が夕飯が出来たと呼びに来きたところで勉強会は終了した。













「あの、今日はありがとうございました」
「いや、俺様の方こそ、さんきゅ」

 夕飯を食べ終わった頃には外も暗くなり、優治先輩をあまり遅くまで引き留めるわけにもいかず、少し後ろ髪を引かれる思いで外に出た。今日は長い時間一緒にいたのに、離れるのが寂しく感じるのは会えない時間が長かったからかもしれない。
 俺は優治先輩を見上げた。近くには立派な車が停められている。俺たちは数秒見つめあって、優治先輩がゆっくりと顔を近づけてきた。俺は自然と目を瞑る。すぐに離れて行く形の綺麗な唇を追って、顔が熱くなる。

「じゃあ、また」
「はい、また」

 優治先輩は優しく笑うと、踵を返して車に向かった。俺は車が発車し、見えなくなるまでそこに突っ立っていた。――無意識に、唇を触りながら。

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