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 優治先輩は古典の教科書に目を落とした。軽くペンを回して、懐かしむように目を細めた。

「俺様もだ。初めて会った時にもう既に気づかれてな」
「結構鋭いんですよね」
「いや、それもあるとは思うが…お前が鈍いんだと思うぞ」

 ぎくりとする。瞳や真由ちゃん、郁人。そして多分京も……。結構気付いている人がいる中で気づかない俺はもしかして、とは思ったが。でも優治先輩って俺のこと好きなのか? なんて自意識過剰じゃないか? ……いや、というか性別が大きいような。女性だったら、恐らく気づいていた。と、思う。
 それを告げると、優治先輩は確かに、と一度頷くが、すぐにいや、と口にする。

「白木の奴も、感づいていたようだし、勘のいい奴は気付いていそうだけどな」
「……白木?」

 だ、誰?
 首を傾げると、優治先輩は胡乱な目で俺を見た。もしかして忘れてるだけ? と少し焦りながら記憶を掘り起こす。白木、白木…と心の中で復唱する。

「…お前がこの前会って話した奴なんだがな」
「…あ! 生徒会の…?」
「そうだ。ちなみに副会長な」

 ぼんやりと顔が脳裏に浮かぶ。大変申し訳ないが、優治先輩のオーラ凄すぎて、あまり他の人が印象にないのだ。…この言葉は、ブーメランだな。

「……って、え? その、白木先輩は気付いて…?」
「俺様がお前の話をするたびに甘い顔になってるんだと。この前指摘された」

 …まじかよ。恥ずかしくて俯くと、ふ、と優治先輩が笑うのが分かった。顔は見えないが、白木先輩の言う甘い顔になっているんだろうな、と思った。

 

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