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 驚いたことに、生徒会長は俺の言葉を真剣に聞いてくれた。何だかそれがとても嬉しく感じて(寧ろ俺が頼まれてる側なんだから当たり前なんだけど、こいつの場合は常に上から目線だから感動したんだろう)、調子に乗ってこういう言葉を使った方がいいとかをべらべらと喋る。

「それと、ラブレターってのは四百文字程度に収めるべきです」
「四百字? 短すぎねぇか」

 み、短い…? 目を丸くしたが、生徒会長のラブレター(という名のポエム)を思い出して納得する。そういえばあれ、凄い分量だったな…。途中から流し読みしてたけど、結構な時間を要した。

「四百字ってのは、例え文章が上手くない人でも上手く書ける量らしいんです」

 生徒会長は頷いて、立ち上がる。

「また書いてくっから、休み明けの放課後またここに来い。間違っても俺様を待たすんじゃねぇ」
「あ、は、はい…」

 俺は呆然としながら辛うじてそう言うと、何も言わず出て行く。え、お礼もなしかい。
 ……つーか、やっぱり休み明けも行かないと駄目なのか…。広い建物に一人残った俺は、深い溜息を吐いたのだった。











 今思い返してみると、何て濃い一日なんだ。

「大樹ー? どうしたの」
「いやー、ははは…なんでもない。あ、そうだ、ちょっと放課後に用事出来たからこれからずっと一緒に帰れねえわ」
「えー! 何でー!?」
「いやだから用事がだな…」
「私らより優先する用事ってなんなのさー!」

 生徒会長の恋を手助けする用事です。何て言えるわけがない。言ったら確実に殺される。生徒会長に。

「…まあ、俺にも色々あるんだよ。ごめんな」
「もー…その代わり、用事がない日は絶対に一緒だからね?」
「有り難うな」

 譲歩してくれた二人に笑みを浮かべると、二人も仕方ないなあと言うような顔で微笑んだ。
 見慣れた校舎が直ぐそこという位置まで行くと、登校する人々の中にすらりと伸びた長身の男の背中が目に入った。顔を見ずとも誰だか分かる。――生徒会長だ。あんなにオーラを放って歩いているのは彼しかいないに違いない。朝からこの憂鬱の原因に会ってしまった。……益々一日頑張ろうという気持ちが削がれる。頼むから俺に気付くなよ。こんな人の多い所で下僕だなんて呼ばれたら俺登校拒否になるかも。

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