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 瞳を家の前まで送り届けると、名残惜しげに見上げられた。俺は瞳の肩にそっと手を置く。

「瞳」
「……ヒロくん」

 瞳はじっと俺を見つめる。目を逸らしたくなるのを抑えて、瞳にとって聞きたくないだろうことを告げる。

「もう、俺のことは諦めてくれ」
「……あの人と付き合うから?」

 瞳はぎゅっと眉を顰める。確信めいたその言葉に、俺は数拍おいてから頷く。

「どうしてもだめ? 諦めなくちゃいけないの?」

 手から振動が伝わってくる。瞳は肩を震わせ、泣きそうな声で俺に訴えかけてきた。ずきずきと胸が痛む。恋愛感情ではないが、俺は瞳のことが好きなのだ。瞳には笑ってほしい。

「……だめだ」

 でも、ここで許してしまったら瞳はいつまで経っても前へ進めない。幸せになれない。

「なんで、なんで……っ」

 瞳の目から涙が零れ落ちる。

「俺よりもいい奴なんていっぱいいる」
「そんなことない!」
「そう思うのは、お前の視野が狭いせいだ」

 俺が一番だと決めつけているから。周りを見ていないからだ。瞳の涙に濡れた顔を見つめながら伝える。

「……でも。わたしは…」
「瞳、いい加減にしなよ」

 突然背後から聞こえた声にびくりと肩が跳ねる。振り返ると、呆れ顔の愛がいた。

「何でここに…」
「瞳の様子が気になって来たんだよ。…ごめん、話盗み聞きして」

 ……いつから聞いていたんだろう。優治先輩の名前は俺も瞳も出してないけど…。以前愛が京に向かって気持ち悪い、と言っていたのを思い出し、怖くなる。俺も優治先輩が、――男が好きだと言ったら引かれるだろうか。
 俺は恐る恐る愛を窺うが、愛は呆れ顔のまま瞳から視線を外さない。

「あんた、いつまで大樹の優しさにつけ込むつもりなの?」
「でも、愛ちゃん…」
「でもじゃない」

 瞳は何か言い返そうとして口を開いたが、少し震わせただけでぎゅっと口を閉じた。

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